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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第111話 落し所(その17)】 

 与兵衛により吉原に売られた娘の内二十一人が戻って来ることに現実味が生じた。
その娘たちを迎い入れるために竜泉寺町に神田庵が生まれようとしていた。
その手伝いのため、兵庫が立ち上がった時
「旦那様」と志津が声を掛けた。
「まだ、何か在りますか」と兵庫が志津の声に違和感を覚え、返事をした。
四郎兵衛さんは揚屋の話をしておられましたが、お断りした方が良さそうに思えて参りました」
「光栄ですと云ったのは・・」
「揚屋は凡そ百年ほど前から廃れ始めたそうです。それは揚屋遊びがあまりにも高すぎたからです。そうしたなか格下だった引手茶屋の中に客を満足させながら、貪り過ぎない店が現れ、今は引手茶屋の時代です。私も揚屋に呼ばれたことは在りませんでしたので、光栄と申したのです」
「断る訳は?」
「それは女の恨みが怖いからです。女の誰しもが許されるのなら揚屋に呼ばれたいと思って居るでしょう。そこに吉原を出た女が上がるのは、旦那様のこれまでのお働きを無にしかねません。吉原は女の機嫌を損ねる損を甘く見ていますので、断って下さい。その代わりこちらにお呼びしてお願いしましょう」
「分かりました。四郎兵衛さんを追いかけてみます」

 兵庫が四郎兵衛に追いついたのは日本堤から大門に向かう道だった。
兵庫の話を聞いた四郎兵衛は
「確かに」と呟き、惣吉さんには揚屋の話は止める方向で話してみます」と云い大門の中へ入っていった。
 竜泉寺町に戻った兵庫が志津に伝えると
「旦那様、駒形に松葉屋さんから頂き物の調度類を置いてあります。済みませんが、こちらに移して頂けませんか」
「そうですね。あれを運んだのは花川戸の大黒屋でしたね。頼んで来ます」
「それと・・・」
「何ですか」
「五日以降の話ですが、凡そ三十人に料理を振る舞わねばなりませんので、その人手を甚八郎さんや竜三郎さんに頼んで下さい」
「要するに、料理を作るお琴、千夏、小夜や膳を運ぶ娘のことですね」
志津は、微笑み返した。

 竜泉寺町を出た兵庫は駒形より先に押上を目指した。
駒形の内藤が午前中子供たちの指導に時間を割いて居るからだ。反面押上の甚八郎は剣術指南がお役で、少しの時間を割いても支障が無いのだ。それは先日まで兵庫のお役でも在ったのでその辺は心得ていた。
 押上に着くと甚八郎は兵庫の出た部屋に引越しして来たばかりでお琴に使われていた。
庭から回って来た兵庫を見て
「先生、お上がり下さい」
「よし、運び込みを手伝うから志津の頼みを聞いてくれ」
「先生は使い走りで来られたのですか」
「そう云う事だ。この後、内藤さん、花川戸の大黒屋、入谷の竜三郎さんと回わり昼飯には戻らねばならないので走らねば間に合わない。まさに使い走りだ」
「それでは、使い走りの御用を聞く前に荷の運び込みの相方を頼みます」
「いい物を持って居るな。流石、旗本の倅だな」
「冗談言わないで下さい。旗本に金が無いのくらい知って居るでしょう」
「知って居る。私は親父様を誉めたのではなく甚八郎を誉めたのだ。私は志津に何も買ってあげられないでいるよ」
「ここの裏長屋に居た時は狭かったので良かったのですが、中之郷の離れを借りられたので、なけなしの金を叩いて買ったのです。駒形に置いてある奥様の物を見ていたので大変でした」
「その駒形の荷物は明日には竜泉寺町に運びます」
兵庫と甚八郎は話をしながら、廊下まで運ばれて来た荷を奥座敷へと運び込んだ。
そして、兵庫、甚八郎、お琴は向かい合った・
「この月の早ければ五日に大切な客を迎えます。志津の頼みです。料理、凡そ三十人分をお琴さん、入谷に居る千夏と小夜に任せたいとのことです。それと配膳の女の子を選んで欲しいとのことです」
「分かりましたが前日には竜泉寺町に入らないと段取りが組めるか心配です」
「そのことは志津に伝えます」
「今日の午後、子供たちが床磨きに行くことに成って居ますので付き添います」
「そうでしたね。そうして下さい」
話を済ますと兵庫は押上を出て入谷に向かった。

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Posted on 2018/08/06 Mon. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

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