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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第111話 落し所(その20)】 

 表に神田庵の看板を掛けたが、一歩家の中に入ると料理屋が営まれた形跡の他に金貸しに染まった部屋もいくつか見られる。
ただ、この広い家には人が暮らしていた息吹は感じられない。
兵庫たちは、家の中の淀んだ空気を入れ替えるために全ての戸を開け冷たい冬の風を呼び込み、さらに生気溢れた子供たちを入れ、空気の入れ替えの他に凡そ十年間人に触れられることなくたまった埃を叩き、塵を掃き出し、今日はさらに子供たち二十三人が光を取り戻すために磨きにやって来ていた。
 いつしか、兵庫、甚八郎、藤十郎、実深の侍四人は部屋に戻った。
志津とお琴は台所へ場を変えていた。
「先生、寒いので動きませんか」
「そうだな。庭仕事を手伝いますので無用の長物はこの部屋に置いて下さい」
 こうして神田庵に居る者全てがこの日の夕暮れまで働き、それぞれの家に戻って行った。

 嘉永六年十二月四日(1854-1-2)になると午前中から人を変え、子供たちが神田庵に集まり仕事を始めた。
早ければ明日にでも客が来ると聞かされており、今日中に迎える準備を整えようとする気持ちが働いたのかもしれない。
 そうした中、大黒屋に頼んだ志津の荷が届いた。
物の良い調度品が表口から兵庫の続き部屋の奥座敷に運び込まれていった。
通り道に居た者は言葉なく、ただ好奇の目をもって見送った。
好奇の目を放って置くと間違った理解が広まりかねないと思った志津は、
「皆様、お茶を出しますので部屋にお集まりください」
部屋に集まって来た大人たちに、子供たちが茶を運んだ。
兵庫や志津が口をつけると、皆も飲み一服した。
「皆さん、先程運び込まれた調度のことが気に成るでしょうから、お話し致します」
思いもよらぬ話に皆の目が志津に集まった。
「今の品物は、私の物ですが、鐘巻の妻となる前に頂いた物です。これまで駒形の一部屋押し込んでおいたのですが、早ければ明日に来られるお客様の中に頂いた方がお越しになられるので、無くては失礼に成りますので引っ張り出したのです。ご存知でない方が居られるかもしれないので申しますと、私は吉原に居たことが在るのです。隣に居る野暮なお方に引かされた訳では御座いません。一緒になるまでは苦労させられました」
甚八郎とお琴の座る辺りから笑いを押し殺す声が漏れた。
「お琴、お前も苦労したな」と兵庫が話題を移した。
「はい、お弟子の中でも先生に似て一番野暮でしたから」とお琴が返した。
「何ですか、惚気話を聞かされているぞ。年寄りにも毒だ」と彦次郎が腰を上げた。

 それから暫くして、やって来た者たちは、大工衆を除いて昼食を摂るために戻って行った。
そして午後に成って山中碁四郎が顔を見せた。
「内藤さんの話では、早ければ明日にでも吉原の連中が来るそうですが」
「はい、こちらの読みですが、吉原では揚屋で話し合うことを考えていたのですが、それは花魁の妬みを買い後々の火種として残ると志津が云い、場所をここに変えることを提案したのです。まだ返事が来ていませんので、もう明日と云う事は無いでしょう」
「そう云う事ですか」
「相手に伝えたのは、志津が吉原から来る者の世話をすることの他に、吉原で困って居ることで、こちらで引き受けられることを探し、それを落し所にすることにしました」
「それで、落と所は探せたのですか」
「年季奉公を終えた者でどこにも行く所が無い者を引き取ると云うので落し所にして貰うことにするようです」
「それは良いですね。ごつい男たちが増えて居るので、落し所と云うよりこちらにとっては有り難い話ですね」
「ああ、男は女次第ですからね」

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Posted on 2018/08/09 Thu. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

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