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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第111話 落し所(その23)】 

 駒形の自身番に南町奉行所定廻り同心の久坂が立ち寄ることは在るが、広い見回り地を受け持って居るため一か所に長居は出来ない。それと見回りを終えれば奉行所に戻りその日の見回り状況を記載し、場合によっては奉行への報告も必要なのだ。これらは基本的に日中に済ませることが基本で、ローソクの灯を頼りの記載などはせず、役宅に戻って夕食を摂るのが日常である。
 兵庫が自身番に行く前にたまたま寄った駒形の養育所にその久坂が居たのだ。
「遅くまでご苦労様です」
「全くだ。遅く帰るといつまでも片付かないとうるさいからな」
「内藤さん、これから久坂さんに頼みがあるので、奥様の機嫌を直すものを用意して下さい」
「分かりました」
「何だい、頼みとは」
「成田屋与兵衛を刺殺した珊瑚から人殺しの記憶を無くしたいのです」
「与兵衛は息を吹き返して逃げたことにしたはずだが」
「そうですが、駄目を押したいのです」
「どのように」
「逃げていた与兵衛が捕らえられ江戸へ連れ戻され、島流しになるというのでは如何でしょうか」
「島流しか・・あの年では戻っては来られぬな」
「そこが狙いです」
「分かった、考えておく」
「これから入谷に行って頂けませんか。訳が在って急いでいますので」
「何だい、その訳とは」
「六日に吉原の楼主等二十三人が成田屋改め神田庵に集まり、騙され吉原に売られ、現在吉原に留まる二十一人の娘たちを戻して貰う話を致します。感触としては半分以上は戻りそうですが残りの半分も戻して貰うため、こちらも更なる提案をし双方にとって受け入れられる落し所を探すことになります。問題は娘たちを戻す切っ掛けを作った珊瑚が負い目を負うとしたら気の毒です。珊瑚にも良い落し所を与えたいのです」
「そう云う事か。珊瑚を助けようと思ったのは私だ、今も変わってはいないので出来ることはやるよ」
「それでは行きますか」
「奥様の機嫌を良くする者ですが、使うか否かはお任せします」と内藤が紙に包んだ物を手渡した。
 兵庫と久坂は表に出て入谷に向かった。
「よくもまあ、妓楼の主が話し合いに来るものだな。吉原の者を相手に話し合いとは、金を出さないことを言ったからだろうが、脅したのか」
「四郎兵衛さんには事件の真実を話しました。そして与兵衛の残した帳簿を見せました。それが脅しだと云うのなら、脅しですが、脅しですか」
「立派な脅しだよ。遠山様とは違い池田様はこの手の事件には厳しいから、事件にはしたくない」
「穏やかに済ませ、一日千両が落ちる吉原を守るに決まっているということですね」
「そういうことだ。鐘巻さんの勝ちだが、引き取る二十一人がお荷物になりかねないので痛み分けのような気がするよ」

 入谷に入った兵庫と久坂は部屋に珊瑚と乙女を竜三郎・おとき夫妻の部屋に呼んだ。
「珊瑚、久坂さんが良い話を持って来たので聞きなさい」
「はい」
「逃げていた成田屋与兵衛が三島宿で捕らえられ江戸に連れ戻された。何もかも神妙に白状した。遠島のお裁きが出、次の船が出る日を待って居る。もう歳だから生きて戻ることが無いから安心しなさい」
「本当に生きて居たのですね」
「もう事件のことは忘れ、学べなかったことを鐘巻さんの所で学びなさい」
「はい、始めております」
「いま、成田屋が学びの家・神田庵として生まれ変わろうとしています。乙女と珊瑚にはそちらに移り住んで貰うつもりです」
「ここの方が良いのですが」
「乙女さん、珊瑚さん。神田庵の女主は鐘巻様の奥様ですよ」
「鐘巻様、本当ですか」
「はい、近々迎えに来ますので、荷を纏めておいて下さい」
「はい」
兵庫と久坂は二人の笑顔を見て、竜三郎の店を出た。
「久坂さん、有り難うございます」
「役に立てなのなら、結構なことだ」
二人は少し同じ道を歩いたが分かれていった。

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Posted on 2018/08/12 Sun. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

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