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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第111話 落し所(その24)】 

 兵庫が下谷龍泉寺町に新しく看板を掲げた神田庵に戻って来た。
外から通い神田庵の内外の補修などを手掛けていた者たちは既に帰っていた。
ただ新しく住人となった千夏と小夜を加え十二人となった夕食が始められた。
そして、食事が終わり茶を飲んで居ると志津が
「旦那様、何か良い話でも御座いましたか」と既に聞き知って居ることを尋ねた。
「はい、南町定廻り同心の久坂様より、逃亡していた成田屋与兵衛が捕らえられ、遠島のお裁きが出たそうです。吉報なので与兵衛から逃げ入谷に移っていた珊瑚と乙女に知らせ、いつでもここで修行が出来るので、支度をして待つように伝えて来ました」
「そうですか、六日にはたくさんのお客様がお越しに成ります。旦那様、明日にでも二人を迎えに行って頂けませんか。私物だけ運んで頂ければ結構です」
「分かりました」

 そして嘉永六年十二月五日(1854-1-3)の夜が明けた。
各養育所の動きが激しく成って居た。
昨日の夕方、神田庵に行き内外の補修を手伝っていた者が戻り、早ければ五日と知らされて居た客の来る日が、一日延びて六日に決まったことが伝えられたからだ。
急遽、駒形、中之郷元町、押上、向島の留守居役が打ち合わせを持ち、五日に子供たちを総動員し朝から神田庵で残って居る作業を済ませることに決めたのだ。

 神田庵では客を迎えるためにもう一日使えることに成り、男たち総動員で中庭の更地化を行う事にした。
ただ、女の修行場になる神田庵は女の都合の方が優先される。
 兵庫は志津の頼みで入谷へ乙女と珊瑚の二人を迎えに行くことに成った。二人にはそれぞれ私物が支給されていたため、その荷を運ぶのが兵庫一人ではと思い、番方の勘三郎に「入谷に行くので同道をお願いします」と頼んだ。
 勘三郎は三食兵庫たちと同じ部屋で食べているため、兵庫の動きはある程度勘三郎にも分かる。
「分かりました。背負子を持って来ます」
「すみません」
背負子を使うと云う事は兵庫の荷も背負う事を意味していたからだ。

 兵庫と勘三郎が入谷に着くと、乙女と珊瑚の支度は既に出来ていた。
兵庫の背後を付いてくる二人の女に憂いの影は微塵も無く、むしろ顔には笑みさえ浮かんでいた。
不思議に思えるのが、二人の荷を背負子に括り付け担ぐ勘三郎が一番楽しそうな様子を見せているからだ。
もっとも勘三郎は兵庫と行動するときに仏頂面を見せることはない。兵庫の近くでは常に何かの変化が起きるのを見ることが出来るかもしれない。

 四人が神田庵まで戻って来た。
「変わって居る」「本当だ」
乙女と珊瑚が塀を見て云った。
「ここに来た娘たちには、良くない思い出が在ると思い模様替えして居るのです」
塀の切れ間の出入り口まで来ると
「看板も変って居る。何て読むの」
「かんだあんです」
「なりたやは嫌ですけれど、かんだあんに変えると何が良いのですか」
「それは話すと長くなるので後にして、中に入りましょう」
入ると多くの子供たちの姿が見えた。
遊んでいるのではなく、明らかに何か仕事をしていた。
「兄上」「兄上様」の声が手を止めた子供たちから上がった・
「ここに、こんなに居るのですか」
乙女が尋ねた。
「この家は広い割には住む者が少なくて、人に触れられることの無いまま放置されて来た様です。ですから元気な子供たちに触れて貰って居るのですよ。それにしても多いですね」
 兵庫が戻ったことが奥に伝わったのか志津が顔を見せた。
「よく来てくれました。私の部屋に来て下さい。勘三郎さん、荷物もお願いします」
 部屋には茶を持った志乃、千夏、小夜がやって来て話に加わった。
「志乃さん、落ち着くまで乙女さんと珊瑚さんをお願いします」
「はい、奥様」
「宜しくお願いします」と乙女と珊瑚が志乃に頭を下げた。
「ここは皆が力を合わせる所ですよ。私も似たような身の上ですからね」

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Posted on 2018/08/13 Mon. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

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