【鐘巻兵庫 第111話 落し所(その26)】
【鐘巻兵庫 第111話 落し所(その26)】
拍手が二階から起こった。
二階に集まり六日の準備をしていた女たちが、梢に登って来た観太の姿を見て、見物して居たのだ。
周りの建物に触れることもなく欅の上半分が倒れたが、ぶら下がっており、いつ首の皮一枚が切れて落ちるか物騒なので放置はできない。
兵庫は観太が梢に結び付けた縄を強く引いた。すると上下を繋いでいた木の皮が剥がれぶら下がって居た梢部分全体が地に落ち土ぼこりを上げた。
地に横たわった梢部分は地上からは長柄の鋸でも届かず多くの枝、小枝が付いていた。
この梢部分は、殆ど柱状態になって立って居る欅の本体から遠のけられ、子供たちに渡された。
兵庫、勘三郎、常吉、天道、新藤、平田が欅の周りに集まった。
「この欅は後で何かに使いたいので丁寧に鋸を使って倒すことにします。その前に上端に縄を掛け倒す向きを決めます。勘三郎さん、高い所は嫌でしょうが縄を掛けて下さい」
皆、勘三郎が二階から飛び降り足を折ったことを知っており、笑った。
笑われた勘三郎は縄の端を結び輪を作ると、登って行き天辺まで行くと縄の輪を掛け戻って来た
「怖かった」と云い、今度は笑わせた。
佐吉がござを敷くと腰を下ろし地表から五寸程の所に鋸を入れた。
「皆さんが鋸を入れるのは一度だけです。切り倒せない時は子供たちにも一度ずつ入れて貰い、それでも倒せない時は皆で縄を引き、木を押して倒しましょう」と兵庫が倒す段取りを説明した。
段取り通り大人たちは代わる代わる鋸を持ち切り込みを深くしていった。
そして子供たちが小さい者順に並び鋸を入れていった。
「遠慮せずに切りなさい」と兵庫が子供たちに檄を飛ばした。
しかし、凡そ一寸程残して終わった。
子供たちは段取りの最後まで楽しみながら木を倒したいので鋸作業の力を抜いていたのだ。
次の段取りは欅の天辺に掛けた縄を引くことと立って居る欅を押すことだった。
ただ引く縄は子供たちの人数、五十人弱に比べると短く、押す木は細く男の子全員の力を合わせることが出来なかった。
「もう一本縄が在るので木に掛け両端を引きなさい。ただし木が倒れ始めたら力を抜き樹から離れなさい」
子供たちが欅に掛けた縄を引き、また数人が欅を押した。
その力が合った時、欅から折れる悲鳴が上がった。
新しくかけた縄を引いた子、欅を押していた子供たちが欅から離れた。
ただ、欅のてっぺんに掛けられていた縄は引かれ、欅は悲鳴を上げながら倒れた。
丸太となった欅はその場から庭の中ほどに運ばれた。
「子供たちでこの丸太を三尺に切り分けて下さい。後で使います」と兵庫が頼んだ。
「分かりました」
更地化の一段階として、庭に生えていた樹は切り倒されたが、今度は切り株が存在感を示していた。
佐吉が「兵庫様、鋤、鍬、斧を各二、そして“木起こし”(ツルハシ)を一つ用意しました」
「木起こし?とはあれですか」と庭の隅に置かれている物を指さし確かめた。
「はい、辰五郎さんに作って貰いました」
兵庫はその木起こしを手に取ると、切り倒した欅の切り株の周りの地面に打ち込んだ。
深く打ち込まれた木起こしの金属部分を抜かずに抉(こじ)ると固まっていた地面が緩んだ。
「良いですね」と云い、兵庫は続け様に打ち込みと抉りを繰り返すと根回りの土がほぐれた。
「皆さんで、これらの道具を使い庭の切り株を掘り起こして下さい。深い根は切って構いません。後は頼みます」
兵庫は男たちが動き回る中庭から上がり自室に戻った。
そこには志津の他に志乃、珊瑚、乙女が居た。
「旦那様、明日の席次ですが・・・」
「明日出る三役は誰もが何処に座ろうが気にしませんので志津に任せます」
「有り難うございます。居心地が悪いでしょうが上座にお座りください」
「志津もか」
「いいえ、私と四郎兵衛さんは下座にします」
「所謂上座に、二十人を超える者たちを座らせる広い部屋はここには無いです。何か手はありませんかね」
「無い物ねだりですか・・・」
「金屏風だけでも背後に置けば、上座のような気に成りませんか」
「旦那様、取り敢えず総幅八間分手当てして下さい」
志津は兵庫の冗談に近い案を受け入れた。
「分かった」
兵庫は羽織袴に身を改めると、部屋を出て行った。
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拍手が二階から起こった。
二階に集まり六日の準備をしていた女たちが、梢に登って来た観太の姿を見て、見物して居たのだ。
周りの建物に触れることもなく欅の上半分が倒れたが、ぶら下がっており、いつ首の皮一枚が切れて落ちるか物騒なので放置はできない。
兵庫は観太が梢に結び付けた縄を強く引いた。すると上下を繋いでいた木の皮が剥がれぶら下がって居た梢部分全体が地に落ち土ぼこりを上げた。
地に横たわった梢部分は地上からは長柄の鋸でも届かず多くの枝、小枝が付いていた。
この梢部分は、殆ど柱状態になって立って居る欅の本体から遠のけられ、子供たちに渡された。
兵庫、勘三郎、常吉、天道、新藤、平田が欅の周りに集まった。
「この欅は後で何かに使いたいので丁寧に鋸を使って倒すことにします。その前に上端に縄を掛け倒す向きを決めます。勘三郎さん、高い所は嫌でしょうが縄を掛けて下さい」
皆、勘三郎が二階から飛び降り足を折ったことを知っており、笑った。
笑われた勘三郎は縄の端を結び輪を作ると、登って行き天辺まで行くと縄の輪を掛け戻って来た
「怖かった」と云い、今度は笑わせた。
佐吉がござを敷くと腰を下ろし地表から五寸程の所に鋸を入れた。
「皆さんが鋸を入れるのは一度だけです。切り倒せない時は子供たちにも一度ずつ入れて貰い、それでも倒せない時は皆で縄を引き、木を押して倒しましょう」と兵庫が倒す段取りを説明した。
段取り通り大人たちは代わる代わる鋸を持ち切り込みを深くしていった。
そして子供たちが小さい者順に並び鋸を入れていった。
「遠慮せずに切りなさい」と兵庫が子供たちに檄を飛ばした。
しかし、凡そ一寸程残して終わった。
子供たちは段取りの最後まで楽しみながら木を倒したいので鋸作業の力を抜いていたのだ。
次の段取りは欅の天辺に掛けた縄を引くことと立って居る欅を押すことだった。
ただ引く縄は子供たちの人数、五十人弱に比べると短く、押す木は細く男の子全員の力を合わせることが出来なかった。
「もう一本縄が在るので木に掛け両端を引きなさい。ただし木が倒れ始めたら力を抜き樹から離れなさい」
子供たちが欅に掛けた縄を引き、また数人が欅を押した。
その力が合った時、欅から折れる悲鳴が上がった。
新しくかけた縄を引いた子、欅を押していた子供たちが欅から離れた。
ただ、欅のてっぺんに掛けられていた縄は引かれ、欅は悲鳴を上げながら倒れた。
丸太となった欅はその場から庭の中ほどに運ばれた。
「子供たちでこの丸太を三尺に切り分けて下さい。後で使います」と兵庫が頼んだ。
「分かりました」
更地化の一段階として、庭に生えていた樹は切り倒されたが、今度は切り株が存在感を示していた。
佐吉が「兵庫様、鋤、鍬、斧を各二、そして“木起こし”(ツルハシ)を一つ用意しました」
「木起こし?とはあれですか」と庭の隅に置かれている物を指さし確かめた。
「はい、辰五郎さんに作って貰いました」
兵庫はその木起こしを手に取ると、切り倒した欅の切り株の周りの地面に打ち込んだ。
深く打ち込まれた木起こしの金属部分を抜かずに抉(こじ)ると固まっていた地面が緩んだ。
「良いですね」と云い、兵庫は続け様に打ち込みと抉りを繰り返すと根回りの土がほぐれた。
「皆さんで、これらの道具を使い庭の切り株を掘り起こして下さい。深い根は切って構いません。後は頼みます」
兵庫は男たちが動き回る中庭から上がり自室に戻った。
そこには志津の他に志乃、珊瑚、乙女が居た。
「旦那様、明日の席次ですが・・・」
「明日出る三役は誰もが何処に座ろうが気にしませんので志津に任せます」
「有り難うございます。居心地が悪いでしょうが上座にお座りください」
「志津もか」
「いいえ、私と四郎兵衛さんは下座にします」
「所謂上座に、二十人を超える者たちを座らせる広い部屋はここには無いです。何か手はありませんかね」
「無い物ねだりですか・・・」
「金屏風だけでも背後に置けば、上座のような気に成りませんか」
「旦那様、取り敢えず総幅八間分手当てして下さい」
志津は兵庫の冗談に近い案を受け入れた。
「分かった」
兵庫は羽織袴に身を改めると、部屋を出て行った。
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