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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第112話 一抜けた(その3)】 

 中之郷元町の養育所に入った兵庫は中川矢五郎の部屋に彦四郎と弥一を呼び、話を始めた。
「昨日、吉原の楼主等を神田庵に招き、騙されて吉原に売られた二十一人の女たちを当方に引き渡す・かねてより願いについて、最後の話し合いを山中さん、内藤さんを交え行いました。吉原側で当方の申し出を受け入れる話し合いが既に出来ておりました。当方からは、吉原で年季が明けた後、行先のない女たちが居れば受け入れる話をしておきました」
「吉原側が受け入れたのは騙された娘を買ったことが一分の楼主の問題で終わらずに、吉原全体の話になるのを恐れたからだと思う。何しろ今の御奉行は堅物の池田様だからな。行き場の無い者たちを当方で受け入れる話は、吉原全体に及ぶ話だから良い土産話に成る。喜んで帰った事だろう」
「まさか池田様に助けられるとは思ってもみませんでした。今日参ったのはお願いです」
「弥一を呼んだところを見ると、面白そうな話のようだが何ですか」
「実は今日の午前、私の留守中に吉原から娘一人が連れられて来ました。その娘の名は房枝です。房枝の話では、千駄木坂下町の源兵衛店に住む小間物屋の元吉が身請けの金をためて迎えに来ると云って居たそうです。元吉は吉原出入りを許された小間物屋で、客となるのは房枝の方です」
「危なっかしい話だが、元吉の真意を確かめろと云うことか」
「狙いはそうですが、お願いは房枝が吉原を出て神田庵に移ったことを知らせて貰うだけで結構です。その時、房枝だけでは判らないといけないので若松屋でお茶を挽いて居る房枝と言って下さい」
「それだけですか」と弥一が聞き直した。
「吉原を出た以上、もう身請けの金は必要ないので、来られない訳はない筈、十日待っても来ない時は別の男を探すと云って居ました」
「分かりました。千駄木坂下町の源兵衛店に住む小間物屋の元吉さんに、若松屋でお茶を挽いた房枝さんからの言伝として、“吉原を出て下谷竜泉寺町の神田庵に移った”ことを知らせれば良いのですね」と弥一が確認して来た。
「はい、もしかすると神田庵について色々と尋ねられるかも知れませんが適当に応えて下さい」
「分かりました。飯を食ったら行って来ます」

 弥一に房枝の言伝を元吉に伝えることを頼んだ兵庫が神田庵に戻って来ると、部屋に若い娘・二人の姿が在った。
「旦那様ですよ」
「とみで御座います」
「てまりで御座います」
「宜しくお願い致します」
「みな、ここでは助け合う事で互いに高め合うことを学んで下さい。普通の娘(こ)と同じことをしていては後れを取りも戻せないからね」
 そして、昼飯の用意が出来たことを知らせる板木がぎこちなく打たれた。
「はい、お昼ですよ。台所に行きましょう。男衆には三人と子供たちに運ばせますのでここでお待ちください」

  暫くして手ぶらの住人の佐吉と勘三郎がやってきた。
「膳は運んで貰えるそうです」と云い座に着いた。
同じように、彦次郎、総三郎、浜吉、水野賢太郎・粟吉の大工衆が入ってきて座に着いた。
大工衆は料理屋だったこの家を女たちの修業の場にするため、各所に物干し場などを造りに来ていた。
 大人の男が座に着いたのを見計らったかのように膳を持った志津、乙女、珊瑚、房枝、とみ、てまり、小夜、千夏がやって来て、配膳し部屋から出て行った。
そしてこの家に住む男の子、文吉、観太、大助、佐助、梅次郎らが己の膳を持ち、やって来て詰めるように座に着いた。
最後のやって来たのは、女たちで、給仕には姿を見せなかった志乃も加わっていた。
これで部屋には赤子の千丸を含め二十三人だった。
「今日は新しい仲間が三人加わりました。今後さらに十八人が参ります。その他に今、入谷に居る子供たち十六人も養育所に向かい入れるためにこちらに移します」
「兄上、ここに居る者の他に三十四人も増えると、もう一緒にご飯は無理ですね」
「大助、手足の指を使わずに増える人数が三十四人と分かったな」
「兄上、手足の指は二十本しかないので使うのを止め、頭の中に算盤を置くようにしました」
「そうか、賢くなったな。食事の部屋はここと、台所に近い志乃さんと佐吉さんの部屋を使えば何とかなるでしょう」

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Posted on 2018/08/24 Fri. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

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