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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第112話 一抜けた(その4)】 

 午後に成ってさらに三人・つばめ、すすき、わかばと今日来た六人の荷物が届けられた。
そして付き添って来た男の口上は、
「残りの十五人は明日中に何度かに分け、お連れ致します」だった。

 迎えに出ていた志津が、
「旦那様荷物を上げたら三人を部屋にお願いします」と云い部屋に戻って行った。
 表口の元帳場に積まれた六人の荷物は多い者でも柳行李二つだった。
兵庫は己の荷の前に立った六人に、
「ここで修行する者たちの寝床は二階です。一階は修行の場として使います。二階の部屋は皆十畳間で、修行するものが使えるのは北側、西側、南側の合わせて九部屋です。ただ、押入れなどは無いので、布団やこれから持ち込む荷は置きっぱなしに成ります。お金は、金額を確かめた上で預かることは出来ます。他に預けたい物が有れば申し出て下さい。一部屋に四人が良いのですが、当面一部屋五人を考えて居ます。明日に成れば残りの者たちもやって来ます。今夜は六人で構いませんか」
「慣れるまでは怖いので皆と一緒が良いです」と一人が云うと皆が頷き同意した。
「それでは男の子の隣の部屋にしましょう。皆さんより若いですが頼りに成りますよ」
と云い、兵庫は二階に向かって、
「手の空いた者は居るか」と大声で叫んだ。
 二階で大工衆の仕事を見ていた稽古着姿の男の子たち五人が下りて来た。
「皆さんの荷を上げるのを手伝ってあげなさい。部屋は皆の隣です。終わったら午後に来た三人を志津の所に案内して下さい」と云い戻って行った。

 文吉が進み出た。
「階段は危ないので荷は全部私たちが運びます。荷物が二つある房枝さん、すすきさん。わかばさんの順にします。大助は留守番」
運び上げる文吉、観太、佐助、梅次郎の四人が一つずつ荷を持ち二階と一階を二往復した。
最後に残ったのがてまりの荷物一つと、てまりと大助だった。
「大助さんたちは皆、お侍なの、先生のことを兄上と呼んでいたけれど」
「養育所の子供たちの父は鐘巻兵庫で母が志津で届けられて居るそうです。ですから兄上ではなく父上と呼ぶのが正しいのですが遊んでくれるので兄上と呼ばれるようになったのです」
「少しわかった」
 二階から文吉一人が下りて来て二人の話が途絶えた。
「てまりさん、お待たせしました。ついてきてください」
てまりが二階へ消えるのと入れ替わるように、すすき、わかば、つばめの三人が下りて来た。
「ご案内致します」
三人は大助により志津の部屋に導かれ、噂に聞く若菜と呼ばれた志津と対座した。
薄化粧の肌が輝いていた。その美しさは噂以上だった。
言葉を失って居る三人に、
「皆さんが始めて成田屋を尋ねた時に抱いていた望みを思い出して下さい。その望みを叶えるお手伝いを養育所でさせて貰います。その日が一日でも早く訪れる様に励んで下さい。なお、ここで修行し、暮らす分には一文も頂きませんのでお金のことは気にせずに励んで下さい。細かいことは明日、二十一人が揃ったところで話します。部屋に戻って構いませんが当面の修行場となる台所に寄ってからにしなさい」

 暫くして、内藤が入谷の子供たちの調書を持ってやって来た。
「十六人全員が養育所に入ることを同意しました。全員身寄りは無いとのことです。取りあえず名前と年齢です。どこに配置するかは任せます」と調書の写しを兵庫に渡した。

サザエ(十六歳)、 勝男(十歳)、ワカメ(八歳)、タラ(六歳)
歌丸(十歳)、  ハコベ(八歳)、 スズナ(六歳)
アマモ(十五歳)、 波吉(十歳)、 砂吉(九歳)
アラメ(十四歳)、 海吉(十一歳)、 島平(八歳)、 磯助(七歳)
米吉(十歳)、 麦次(九歳)

「年齢は現在です。もう直ぐ一つ上がります」と内藤が念を押した。
「初等と中等を分ける年齢ですが、男も女も十一歳にすることで志津と話がついて居ます。
ただ今年は残り少ないので、十歳で分け配置することにします」
「分かりました。それで配置手配をします」
「それに関連して、押上の女の子の中で中等に属す者たちはこちらに移すことにします。なお、昇龍院に移した文吉らは現在ここに居ますが、その再配置については別途考えます」 
「そうですね、十一歳で初等と中等を分けるのは良いとしても、みなこの冬に浮浪から抜け出したばかりで学問においては分けるほどの差は無いのが現状。この子たちを指導するには今の大人だけでは足らない。文吉らの手助けが在れば遅れを取り戻すのに大いに役立ちますからね」
兵庫の意図を察したのか、内藤が同意するように語り、駒形へ戻って行った。

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Posted on 2018/08/25 Sat. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

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