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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第112話 一抜けた(その5)】 

 この日、夕食も終わり表木戸を閉じる頃になって客が来た。
弥一と見慣れぬ男だった。
「勘三郎さん、元吉さんを連れて来たと先生に伝えて下さい」
 予想外の客に兵庫は弥一と元吉を部屋に招き入れた。
「先生、奥様、元吉さんは真面目に稼ぎに出ていて、帰るまで待たされました。用件を伝えたら、これから行くので竜泉寺町に案内して欲しいというので、こっちは帰り道ですから案内してきました」
「それで、わざわざ来たと云う事は房枝さんに迎えに来ると云ったことは本心と受け取って良いのですか」
「はい、房枝さんは気立ての良い方です。迎えたいのですが身請けの金はいくらかかりましたか」
「お金はかかって居ません。房枝さん次第です」
「それでは房枝さんを呼んで頂けませんか」
「弥一さん、この部屋を出たら廊下を左に真っすぐ進み部屋暖簾を潜ると台所に入ります。そこに、房枝さんが居るので呼んで下さい」
 下座に座っていた弥一は頷くと、部屋を出て行った。
女の声が漏れ出て来る部屋暖簾を潜ると、今度は多くの女たちの目に晒された。
「弥一さん。何ですか」と千夏が応じ、女たちの不安を払った。
「若松屋でお茶を挽いて居た房枝さんを迎えに、小間物屋の元吉さんが先生の部屋で待って居ます」
「元吉さんが・・あらどうしましょ・・」
「前掛けを外して行きなさい」と志乃が促した。

 弥一が先導し房枝と部屋に入った。
部屋の外の廊下は台所から来た女たちで埋め尽くされた。
吉原から来た者たちは、出入りする小間物屋の元吉を知って居たので、興味を押さえきれなかったのだ。
「元吉さんが、房枝さんを迎えに来ました。どうしますか」と志津がたずねた。
「私は未だ家のことが一切できません。出来れば年内はこちらで修行をさせて頂けませんか」
「奥様、修行は良いとして、通わせるのでは駄目でしょうか」
「通わせるのは構いませんが、もし千駄木坂下町から通うと、ここには遅く着き、早く戻ることになり修行時間が少なくなり、年内では終わらなくなりますよ」
「分かりました。幸い若松屋に払うために貯めて来た金が在りますので、ここ竜泉寺町か近くに空き家を探すと云うのでは如何でしょうか。得意先にも近いので・・・」
「では、そうするとして、ここは明け六つが起床時間ですから同様に起きて貰い、こちらに通い朝食を作り、元吉さんが食べに来ると云うのでは如何ですか。必要なら昼のお弁当も作らせます。夕飯も此処で食べて、一緒に帰ると云うのは如何ですか。洗濯物が在ればこちらで洗い干し、取り込む。また繕い物も・・」
「そうして頂けるのでしたら、有難い話です」
「房枝さんは如何ですか」
「異存など御座いません」
「しかし、この近くに適当な空き家が在るかは分かりませんので、見つかるまでは房枝さんはこちらで預かります。それで構いませんね」
「何とか早く探してみます」
「弥一さん、元吉さん。夕飯は済ませましたか」
「未だです」
「それではお二人さん、残り物ですが食べて帰って下さい。房枝さん、給仕して下さい」
「はい」
 台所に入った元吉は女たちから色々聞かれた。
元吉は応えながら、明朝から千駄木坂下から通うので朝飯と、昼の弁当を頼んでいた。

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Posted on 2018/08/26 Sun. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

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