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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第112話 一抜けた(その6)】 

 明けて嘉永六年十二月八日(1854-1-6)、明け六つの鐘で表木戸が開けられた。
外に荷を担いだ、元吉が立って居るのを勘三郎は見た。
「朝飯を食べに来ました」
「色男、家の中に入ったら、ただ見て居るだけでは嫌われるぞ」
「雑巾がけをすることに成って居ます」
「全て段取りは話し合って居ると云う事か。わしは外の掃き掃除から始めるよ」
「皆良い人たちで安心しました」
「良い人か・・わしも牙を抜かれたが存外居心地が良いのだから、良い人に成ったのかも知れないね」
「勘三郎さんは、怖い人だったのですか」
「かなりな」

 挨拶を交わした元吉は表口から入り、荷を帳場に置くと台所へと向かった。
「元吉さん、裏の井戸端に雑巾が干してあります。あるだけ水に浸け、絞って帳場と廊下をお願いします。廊下は二階にも在りますからね。下足は在る物を履いて構いませんよ」と房枝に言われた。
「分かった」
 元吉が裏に出ると井戸端には先着が居た。それも男で振り向いた顔は兵庫だった。
「先生も洗濯ですか」
「はい、男が手伝えることはこんなものです。倅のおしめを洗って干すのが朝の仕事です」
「私は雑巾がけを仰せつかりました。表では勘三郎さんさんが掃き掃除、男が掃除洗濯ですか」
 その時勝手口が開いて、
「何方か水瓶に水を足して下さい」と云い戸を閉めた。
「悪いが私はおしめを洗って居るので炊事用の水汲みは元吉さん、頼みます」
「分かりました」

 いち早くおしめを洗い、干し終えた兵庫は部屋に戻ると、剣術の道具を身に着け、草鞋(わらじ)を履くと、子供たちが稽古を始めている中庭に下りた。
兵庫が稽古に加わると子供たちの気合も増した。
そして、表の掃き掃除を済ませた勘三郎も稽古に加わった。
稽古が巡り、兵庫の前に勘三郎が立った。
勘三郎はこの日が来るのを待って居た。その訳は、過日刺客稼業で押し入った船宿で、鐘巻兵庫の名を聞き、恐れをなし刺客を果たさず二階から飛び降り骨折し兵庫等に捕らえられたのだ。
屈辱だったが、医者の治療受けさせられ、暮らしでは下の世話まで子供たちの手助けを受けている間に現状を受け入れられるように成っていった。
傷が癒えた現在、刺客を取りやめ逃げる判断をしたことが正しかったのかを知りたい気持ちが沸き上がって来たのだ。
 勘三郎は果敢に打ち込んでいった。跳ね返され、受け流されて勘三郎が打ち込んだ数だけ面・籠手を打たれ胴を抜かれた。
勘三郎はその心地よさから生きている喜びを感じながら子供たちとも稽古をし、その強さに驚かされ、修行相手が多く居ることを喜んでも居た。

 食事を知らせる板木が打たれた。兵庫等は防具を外し、家に上がり、勝手口から裏に出て、手足を洗い勝手口から入ると志乃が、
「朝は男衆が少ないので、子供たちの膳も女が運びます。部屋でお待ちください」
ここ神田庵は女たちの修行道場である。その一歩が男の胃袋を掴む料理である。いかに旨いものを安く、早く作るかなのだが、配膳は客が来た時のためで、武家奉公した女の様に振る舞うよう実戦で指導されるのだ。
食事の場となって居る兵庫の部屋で男たち九人が待って居ると、千夏を先頭に昨日、吉原からやって来た六人、珊瑚、小夜が膳を掲げ入って来て配膳し、戻って行った。
勿論、元吉への配膳役は房枝だった。
男たちへの配膳が終わると、志津を先頭に己の膳を持った女たちが入って来て座に着いた。
昨日やって来た娘たち六人が米の量、水加減、味噌の量、炊き方などを見聞きしながら作った朝飯。盛り付けたおかずが膳の上に乗っていた。
「本日、吉原から十五人が何度かに分け参り、仲間に加わります。助け合って下さい」
「頂きます」と兵庫の発声に皆が唱和して朝飯が始まった。
一口、二口と箸が進んだ所で元吉が
「旨い。これが食えるようになるのか」と呟いた。
数か所で笑い声が起きたが、無作法とでも思ったのか静かになり、食事は終わった。
膳が女たちの手により下げられ、男たちは部屋から出て行った。
元吉は台所で弁当を房枝から貰い、見送られ神田庵を出て行った。

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Posted on 2018/08/27 Mon. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

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