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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第112話 一抜けた(その7)】 

朝の片付けが済んだ五つ半(9時)頃、台所で働いて居た女たちが、志乃の部屋に集まり、房枝が挽いた茶を飲んで居ると、表口の方から、勘三郎の
「先生、四郎兵衛様です」の大声が届いた。
これで兵庫と志津以外の者までが表口に集まって来たのは吉原から女たちが来るのを知って居たからだ。
「四郎兵衛さん、わざわざご苦労様です」
「鐘巻様、本日の午前中に残りの十五人を三回に分けてこちら神田庵に連れて参ります。先ずは連れて参りました、かすみ、こがね、はるな、はな、かごめの五人をお引き取り下さい」
「分かりました。引き取らせて頂きます。皆さん上がりなさい」
「今日からここがお前たちが暮らす家だ。皆さん、良い人ばかりだよ」と四郎兵衛が上がるのを促した。
その四郎兵衛の言葉より、兵庫の背後に居る見たことの在る女たちや子供たちの笑顔が勝った様だった。それよりも、
「かごめねーちゃん」と後ろの方に居た文吉が叫び出て来た。
「おまえは・・・」
「おろち丸だよ」
おろち丸は文吉の浮浪時代の呼び名である。
「本当かい。立派になって・・・」
「先生と奥様に助けられ、修行したからだよ。心配いらないよ」
 先日勘八と乙女の間で起きた再会がここでも起きた。
「さあ、上がりなさい」と志津が声を掛けた。
吉原に戻りたい者は居ない。かごめが上がると残りの四人も続いた。
五人の荷が帳場の床に五つの小山を作った。
「それでは戻り、次の五人を連れて参ります」と四郎兵衛は神田庵を出て行った。
帳場に上がった女たちは自分の荷物の傍に座わり、志津と話をしている兵庫を見ていた。
「皆さんとの面談は残りの十人が来て全員揃ったところでします。それまでは昨日来た者たちと過ごして下さい。子供たちは荷物を二階の部屋に上げるのを手伝ってあげなさい。なお部屋替えをしますので、荷を出すのはその後にして下さい」
と言い残し兵庫と志津は戻って行った。
「私たちが荷を二階の折口まで上げるので、そこからはお姉さんたちに任せますので、先にお手伝いのお姉さんは上がって下さい」と文吉が段取りを告げた。
これで昨日来た六人が二階へと上がっていった。
「荷物はかすみ姉さん、こがね姉さん、はるな姉さん、はな姉さん、かごめ姉さんの順に上げますので、お姉さんたちは自分の最後の荷の後についてきて下さい」
 次々と荷が上げられ最後の荷の後を行くかごめの後を大助が上っていった。
かごめたちの部屋は南廊下で六間の中庭に面した一番西側の部屋だった。
部屋に備え付けの折り畳み文机を広げ、その上にやはり備え付けの文箱を開き。硯に水を垂らし磨った。
その姿はとても六歳の子とは思えない落ち着いたものだった。
紙を置き文鎮で押さえた。その紙には既に文字が書かれていた。
「皆さん、部屋替えを行う都合と人別の届けをするため、少し身上についてお尋ねします。ここでお応え頂きにくいことは後ほど、奥様から尋ねられます」
 大助は筆を取り墨を付けた
「皆さんに今年の年齢をお尋ねします。かすみ姉さん」
「大助さんは幾つですか」
「私は六歳ですが、もうすぐ七歳になります」
「もう字を覚えたのですか」
「私は小さいので、軽いお箸と筆を持つようにして来たのです。お姉さんは幾つですか」
「二十四歳です。でも男の人には内緒にしてね」
「はい、二十歳だと嘘を言わされるよりは良いので秘密にします」
こんな調子で五人の年齢を聞き、紙には名前と年齢を書き留めていった。
五人の聞き取りが終わると大助は片付けを始め、文箱、文机を元の位置に戻した。
「私は、調べたことを知らせに行きます。皆さんは台所に行くと何か見られますよ」

 四つ(10時頃)に成って次の五人、とんぼ、めじろ、しぐれ、もみじ、こまたちが、そして、四つ半(11時頃)には最後の五人、たか、すぎ、このは、いくえ、べにたちが神田庵に入り、昨日きた六人を含め二十一人全員が揃った。

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Posted on 2018/08/28 Tue. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

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