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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第112話 一抜けた(その9)】 

 昼食が終わると志津は女たちに片付けを先にさせ、済んだら部屋替えをするので集まるように告げた。
女たちが自分の膳を持って出て行くと、入れ代わりに千夏と、小夜が入って来て兵庫と志津の膳を下げていった。
二十一人の女たちは、直ぐに戻って来た。
片付けは養育所の女・子供で引き受けるからと云われ戻って来たのだ。
広い台所だが二十一人の不慣れな者たちに動き回られても仕事は捗らない。また二十一人が戻るのを兵庫と志津が待って居ることも分かって居るので、片付けを引き受けたのだ。

 二十一人が戻って来ると志津が、
「対座するように座って、後ろを空けておいて下さい」
二十一人が座に着いた。
「これから部屋割りを行いますが、部屋は二階の南北西の各三部屋、合計九部屋です。部屋の大きさはご存知の通り十畳間ですが、収納する押入れや棚は現在ありませんので、暮らすのには少し不便ですが我慢して下さい。養育所には大工・建具師が居ますので、模様替えは出来ます。ただ不便な部屋を直すことを考えるより、不便な部屋を出て行けるように自分自身を磨き上げて下さい」
女たちは、笑い頷いた。
志津は一息入れると
「それでは、先ほど九部屋あると申しましたが五部屋を皆さんに割り当てますので、四人の相部屋に成ります。名を呼ばれた方は、後ろに座り直して下さい。同室の者たちには同じ行動や一緒に当番をして貰う事が多くなります。例えば風呂屋に行く時、朝、一番で起きてへっついに火を熾すとかです」
女たちは頷いた。
「すすき組はすすきさん、めじろさん、はなさん、このはさんです」
呼ばれた四人が次々に立ち上がり、席を後ろに移し並んで座った。
こうして
「かすみ組はかすみさん、こがねさん、すぎさん、もみじさんです」
「こま組はこまさん、たかさん、つばめさん、いくえさんです」
「とんぼ組はとんぼさん、はるなさん、かごめさん、てまりさんです」
「わかば組はわかばさん、しぐれさん、とみさん、べにさんです」
五部屋の住人が決められ、並び直し座った。
そして、房枝一人が元の座のままだった。
「房枝さんは先に申したように、志乃さんの部屋に移って下さい」
「はい、分かりました」
「皆さんは今の部屋を出て、この上の北側と西側の部屋に移って下さい。中庭側から陽の光が入り明るいですよ。荷物の多い人は男の子に手伝って貰いなさい」
「宜しいでしょうか」と打診する者が居た。
「どうぞ」
「先ほど同室の者でお風呂屋に行く話が御座いましたが・・・」
「後ほど、皆さんに風呂敷、手拭い、糠袋を配ります。着替えられる方は着替えを包んで下さい。四半刻ごとに近くのお風呂屋さんに案内させます。代金はまとめて神田庵で持ちますので暫くお金は持ち歩かないようにして下さい。慣れたら部屋ごとに行って貰うことに成ります。町の湯屋には決まりごとが在ります。案内するものが口うるさく言いますが、世の決まり事ですから守るようにして、湯屋の上客として受け入れられるように努力して下さい。それが今後世の中で暮らすための修行ですからね」

 女たちの部屋替えが終わると、外出の際使うことに成る風呂敷や手拭いが配られた。
風呂屋に行く順番はすすき組とかすみ組からとなり、案内に選ばれたのは志乃だった。
女たちは志乃に倣い神妙に振る舞い最後は背中を流し合うことを教えられ無事風呂屋を出た。風呂屋の二階の遊興部屋に居た勘三郎の出番は無かった。
 第一陣が神田庵に戻ると、第二陣こま組ととんぼ組が乙女の付き添いで出て行き、暫くすると化粧を落とし戻って来た。
残されていたわかば組に付き添ったのは千夏・小夜と珊瑚だった。
その七人が神田庵から出て行くと、間を置かず文吉以下男の子五人も風呂に行く姿で出て行った。
昼間、女たちを風呂屋に出すのは男の客が少ないからだが、居ないわけではない。個人商店が多かった江戸では昼飯を過ぎた頃には飯屋の雇われ者が来るからだ。問題はそうした男たちの中に善良ではない者が居ることが心配だった。
兵庫が風呂屋の二階に勘三郎を配したのはそうした懸念が在ったからだった。
この日、何事も起こらず、風呂屋に行った者は神田庵に戻って来た。その中にはさっぱりした勘三郎の姿もあった。

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Posted on 2018/08/30 Thu. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

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