FC2ブログ

10 « 1.2.3.4.5.6.7.8.9.10.11.12.13.14.15.16.17.18.19.20.21.22.23.24.25.26.27.28.29.30.» 12

洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

プロフィール

最新記事

最新コメント

月別アーカイブ

カレンダー

【鐘巻兵庫 第112話 一抜けた(その11)】 

 共同生活において食事は何よりも大切な行為で、それに差をつけない養育所のやり方が神田庵でも採用されていた。
主の兵庫や志津と、来たばかりの娘も同じものを食べて居ることは、食事作りに加わり、配膳した者には疑う余地が無かった。神田庵には差別は無かったと云っても良かった。
しいて言えば差別ではなく区別は在った。
例えば男と女、身体の大きさ等で食べる飯の量が違うと云う事だった。
差別の中で暮らして来た娘たちに難しいことを言う必要は無かった。
一緒に同じ暮らしをしていることを見せれば良いことだった。
それ以上に娘たちを安心させる出来事が在った。
それは今朝来たかごめとおろち丸の再会だった。
おろち丸が文吉と名を変え侍の子の様に立派に育てられて居たことだった。
この事実は女たちのは良い話として伝えられた。
また、やって来た娘たちの事前の聞き取りに僅か六歳の大助が任されて居たことだ。
聞き取ったことを紙に書き記す姿に文字を覚える機会を失っていた娘たちは感銘した。
さらに本来ならこの部屋に居るはずの房枝が、台所で好いた男と夕飯を食べて居ると云う事実だった。
神田庵に来る時に楼主や会所の四郎兵衛から聞かされていたうま過ぎる話し、現実はそれよりも良かったと思えたのだ。
夕食が、和やかに終わった。
「片付けが終わったら、部屋に戻り寝ること。これまでとは昼夜が逆に成る者も居るかもしれませんがここでの暮らしは朝が早いです。早起きすることで覚えること、出会いも増えますよ」
「出会いもですか」
「朝、陽が昇る前から働く男はいます。朝の出会いは表口で掃き掃除をすれば働き者の何人かに会います。勝手口には棒手振りが売りに来たり、注文を取りに来ます。洗い髪姿も良いものですよ」
女たちは頷くと、誰からと鳴く立ち上がり膳を持って部屋から出て行った。

 暫くすると障子の外から房枝の声がした。
「入りなさい」と応じると障子が開き、廊下に座る房枝と元吉が頭を下げた。
「先生、奥様、有り難うございました」
「礼を云いたいのは、こっちの方です。もう一々挨拶に来なくてもいいですよ」
二人は頭を下げ、障子を閉め送り口へ向かった。

 片付けを手伝った男の子たちの声が飛び交った。
「大助火を入れて回れ」
「はい」
その声を聞き兵庫が自室の有明行灯を廊下に置いておくと、大助が手燭を掲げやって来て火を灯すと、佐吉の部屋へと回っていった。
神田庵では人の住む部屋と廊下の角に明かりを灯すことに成り、その火種を配るお役を大助に任されたのだ。
大助なら断りなしで娘たちの部屋に入って行っても許される存在だからだ。
「一階、火、配り終えました」
大助が叫んだ。
この家に住む数少ない男の文吉、観太、佐助そして梅次郎が六間廊下の雨戸を閉めていった。
少し間を置いて、二階の雨戸も閉められ、女たちの部屋の明かりが障子に部屋の中で動く影を落とさせた。

夜が更けていった、寝付けなかったのか二階の女たちの部屋から漏れて来る聞き取れない音が止まった。
兵庫と長話をしていた志津が
「寝る決心がついたようですね。明日が早いです。私たちも寝ましょう」

 ←ボタンを押して頂ければ励みになります。

Posted on 2018/09/01 Sat. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

この記事に対するコメント

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

# | 
09/01 07:11 | edit

コメントの投稿

Secret

トラックバック

トラックバックURL
→http://tokinotsuribito.blog79.fc2.com/tb.php/3603-a126be23
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)