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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第112話 一抜けた(その13)】 

 子供たちのことを勘三郎らに頼んだ兵庫は竜三郎と奥に入っていった。
「先生、お忙しいところ済みません」
「構いませんよ。話とは何ですか」
「この店を繁蔵さんにお返ししたいのですが・・・」

 店は元々やくざの親分・繁蔵の持ち物だった。繁蔵は勢力拡大を狙い新興勢力の東都組を久蔵一家の力を借り襲った。訳あって兵庫等養育所の者たちは東都組の者を助けたため、兵庫が狙われる的になった。
兵庫は一計を案じ、繁蔵一家、久蔵一家を東都組の者を匿って居る駒形におびき寄せ夜討を掛けさせる段取りを組んだ。
この策に掛かった芝神明町の久蔵は子分衆全員を、入谷の繁蔵一家に派遣した。
子分が居なくなった久蔵を兵庫等が襲い拉致し、駒形に駆け戻り、子分衆が夜討を掛けて来るのを潜んで待った。
そして、筋書き違わず、夜討にやって来た子分衆は一網打尽にされたのだ。
兵庫たちの仲間には並の道場の師範代が勤まる者たちが居て、又その教えを受けた元やくざ者も多く居た。また捕縛術も心得ており、大した怪我をさせずに拉致したのだ。
その後、入谷の繁蔵も襲われ、家を奪われたのだ。
こうして兵庫等の軍門に下った者たちは、兵庫たちの温情により子分衆は役人に渡されることもなく、養育所の中に組み込まれていった。
ただ、久蔵と繁蔵は円通寺の和尚・浮雲に預けられた。
その後、入谷の家は竜三郎に任され、そこに賄い女としていたおときと結ばれ、飯屋を開いた。
そして旅籠稼業もと考え、選ばれ旅籠修行に出されたのが喜重、島吉、圭次の三人だった。
修行を終え戻って来た三人は元繁蔵一家の子分だった。竜三郎は命を狙われた東都組の者だった。和解した相手だがと竜三郎が過去を振り返るように、三人もまた過去を振り返ることが在るだろう。守らねばならない妻を娶った竜三郎が、この家から身を引く方がと考えたのは、暮らしていく能力を身に付け始めている竜三郎夫妻にとっては受け入れられる選択だったのだ。

「気苦労を掛けてしまったようですね。分かりました何とかしますので、三人の旅籠修行が無駄にならないようにしてください」と兵庫は竜三郎の意を汲んで応えた。
「それは良いのですが、あまり繁蔵さんを待たせたくありません。おときの代わりに賄いを担う者、あと仲居が必要ですが、人集めが・・・」
「繁蔵さんには正月をここで迎えて貰う事にしましょう。代わりの賄いは久蔵一家の者・三人が駒形と聖天町で修行中なので、必要なだけこちらで仕込んで下さい。仲居は深川の料理屋に居た者・二人を療養のため深川の子供預かり所に預けて居ます。もう十日ほど経って居ますので気力を取り戻しているでしょう。足らなければ、探します」
「泊める部屋は五部屋ですから賄いも仲居も二人で良いでしょう。」
「一旦、神田庵に戻り深川へ行って来ます。二人とも子持ちです。店の近くに借家が在ると良いのですが」
「探してみます」

 神田庵に駆け戻った兵庫は志津に事情を話しながら、稽古着を脱ぎ侍らしい姿に着替えた。
「出来ればこちらに連れて来ることも考えていますので、昼には戻れなくなると思います」
「深川に行かれるのでしたら佐助も連れて行かれたら如何ですか」
「そうですね。子供たちの世話をして貰いましょう」

 深川へ行く途中兵庫は駒形に立ち寄った。
少し様子が変わっていた。勝手口に繫がる通り庭の羽目側に棚が作られ、そこに白木の折り畳み文机が積まれていた。他にも見慣れぬ物が置かれていた。
「為吉さん、あれは何ですか」と尋ねた。
「手鏡を置く鏡台だそうです。奥様からの注文だと建吉さんが云って居ました」
「細工も彩色もない、実用第一ですね」
「はい、無印良品だそうです」
表の声が奥まで届いたのだろう、内藤虎之助が顔を見せた。
「おや、佐助とお出かけですか。深川にでも行くのかな」と先手を取って来た。
「図星です。先月末からご無沙汰して居るのでご機嫌伺ですが、もしかすると人を連れて戻って来るかもしれません」
「女それとも男か・・・」
「両方か?」
「分かりました。それと入谷の子供たちの再配置は明日の予定で構いませんね。中之郷も押上もそのつもりですが」
「はい、予定通り入谷から子供たちが入りました。迎えに来るようにお願いします」
内藤と兵庫の意思疎通は早い、兵庫と佐助は駒形を出て山中碁四郎の浮橋に向かった。

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Posted on 2018/09/03 Mon. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

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