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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第112話 一抜けた(その22)】 

 矢五郎・彦四郎親子が永代橋を渡り、立ち寄ったのは霊岸島浜町の自身番だった。
「中川の旦那、百吉さんでしたら隣の四日市町の白子屋で何かが起きたらしく飛んでいきました」
「そうか、わしらも行って来る」
暇そうな書き役と番に付き合い長話をしても益は無いと、矢五郎は首を突っ込んだ程度で自身番を出た。

 二人が白子屋で見た光景は、増やされた灯りに照らされ凄惨な様相を呈していた。
「中川様、満足に話が出来る者は居ませんよ。襲ったのは中川様のお仲間が懲らしめたごろつきのようです。何か在ったのですか」と検分していた百吉が尋ねて来た。
「わしらは何の損害も被らずに済んだので、諭し、二度とこの辺りに来るなと云い解放しただけだ。奴らの顔には殴られた跡が在る、何人いるのか数えるぞ」
その結果は九人だった。
「確か、十人でしたね。逃げたのか、ここには来なかったのか・・」と百吉が疑問を投げかけて来た。
「それはわからん。誰がここに居ないのかも判らん」
「ここの者は主の万蔵と四人です。襲った方が被害が大きいのは変ではありませんか」
「それは脇差と匕首の勝負だったことのほか、襲った方は永代橋で小手に棟打ちを受けて居るので、利き手で匕首を握れなかったからだろう。更に言えば暗い敵地では地の利が悪すぎた」と彦四郎が応えた。
「なるほど。よくも殴り込んだものだ」
「先日までの追剝と今日の追剝とはどこかでつながって居る証ではないか。殴り込んだのは罠に嵌められたと思ったからだろう。ところで白子屋の商いは何だ」
「料理屋ですが、評判を落とし客が来なくなり雇い人に賃金を払えなくなり、料理人や仲居に逃げられたと云う話です」
「死人に口なしだが、白子屋万蔵がおいはぎの嫌がらせをさせた張本人なら、客が来ないのを己の不熱心にせず、深川のせいにしたかったのだろう。しかし、昨日までの追剝は二十人ほど居たというのに死んだのは五人、残りは何処に居るのかな・・」
「その辺のことは、こちらで調べます。そろそろ、昔のお仲間が来ますので・・」
「分かった」

 白子屋を出た矢五郎・彦四郎親子は中之郷に戻るのに近道は日本橋側を歩き両国橋を渡るのが早いのだが、永代橋を渡った。
「彦四郎、涛屋に寄ってみるきは無いか」
「白子屋には匕首が十振り残されていました。居なかったのは、額に鉄扇の一撃を受けただけで利き腕は無事だった首謀者の男ですね。あの顔だけは忘れませんよ。居ますかね」
「匿って貰える者が必要なら、ごろつき風の男たちが沢山いた涛屋に足が向くような気がするが」

 涛屋に着き、引き戸を開け入ると薄暗い帳場に重吉が座っていて、
「やはり来られましたね」
「重吉さん、向こう岸では騒動が起きていました。もしあの男が居るのなら、中之郷元町でほとぼりの冷めるまで預かろかと思うのですが・・・」
「有り難うございます、ここでは狭くて息が詰まるでしょうが、そちらのお屋敷なら・・」
と云い、更に二階に向かって、
「林蔵さん、聞こえましたか。斬られ彦四郎の旦那が迎えに来ていますよ」

 二階に匿われていた林蔵が下りて来た。
「わざわざ有り難うございます。お世話に成ります」
「何処か怪我をしていないですか」
「しいて言えば額ですが」
「わたしは生き残るのに大怪我をした。額(ひたい)のたんこぶで済むとは運が良いな」
「皆さんにお会いできたことの方が運が良いですよ」

 涛屋を出た矢五郎は林蔵に
「今日、わしらが待って居たのはお主らではなく、いつも出る顔の知れた追剝だったのだ。あんたらが来ることは知らなかったのだ」
「わしらは嵌められたと思った。嵌められたのでなかったとしたら、なぜ白子屋の連中は喧嘩支度をして待って居たのだ」
「それはあんたらが一網打尽に捕らえられる所を見ていたのだろう。言い訳を聞いて貰えないと思えば喧嘩支度しか思いつかなかったのだろうよ」
「確かに、言い訳など聞く耳は持って居なかった」
林蔵はそう云い、黙り込んだ。
「今日、永代橋でお前たち十人に立ち向かった者たちは皆、養育所の世話になって居る者、世話に成った者たちだ。まともな者は居ないが、善人に成る修行中の者が多い」
「皆悪党だったと云う事ですか」
「そんなところだ。鐘巻殿率いる戦上手との戦いで屈服し、仲間に加わった者だと思えばいい」
「私もそうなりますか」
「それはわからぬ。養育所の真の主(あるじ)は子供たちだから、加わるには子供たちの手本となるか、子供たちを守らねばならない。もっとも子供たちは先日まで浮浪生活をしていた者だから、生業に就くだけで子供たちの手本になれる。暫くは様子を見て居ればいいよ」

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Posted on 2018/09/12 Wed. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

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