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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第112話 一抜けた(その23)】 

 三人はどこにも寄らず中之郷元町の屋敷近くまでやって来た。
「わしはこれから鐘巻さんの所に行って来るが林蔵さん、改めて聞く。あんたが殺(や)ったのは何人だ」と矢五郎が尋ねた。
「主の万蔵と私に仕事を持って来た卯三郎の二人です」
「永代橋辺りで、あんたの顔を知る者は居なくなったと思うか。それによって何処に匿うか決める都合が在るのだ」
「白子屋では長どすを持って卯三郎が待っていて、“来たぞ”と奥に向かって呼びました。そいつらが生きていればべつですが」
「待って居たのか?」
「はい、橋の上で待たれ、白子屋でも待たれていたと知り、頭に血が上り皆が突っ込みました。一人で番をしていた卯三郎は大勢で掛かりこちらは手傷を負う程度で仕留めましたが、後から出て来た三人は長いのを振り回すので梃摺(てこす)りましたが、九人が相打ち覚悟で仕留めてくれました。のこのこ出て来た万蔵は私一人で殺(や)しました」
「そうか、わしが見た限り息をしている者は居たが、もう絶えているだろう。九人の墓を造ってやれ」
「そうします」
中之郷元町の養育所に着くと彦四郎と林蔵は中に入って行き、矢五郎は竜泉寺町の神田庵へ向かった。

 矢五郎が神田庵に着き、土間の壁に掛けられていた拍子木を取り、打ち鳴らした。
出て来て矢五郎の前に手を付いたのは、お玉と入谷から来たばかりの同じ年の女の子、タラとスズナだった。
「中川の御爺様、どうぞお上がりくださいませ」
「いや、別件で来たのでここで良い、呼んで貰えぬか」
「分かりました。お待ちください」

 兵庫の部屋の外廊下に座り、部屋の中へ、
「兄上様、中川の御爺様が別件でお話が有ると表口にお越しで御座います」
「直ぐに行きます。与兵衛の間に通しておいて下さい」
 ここで与兵衛の間とはこの家の元持ち主だった成田屋与兵衛が使っていた部屋で場所としては一階南側で北側の兵庫の部屋とは中庭を挟んで真向かいにある。

 兵庫は志津に
「私が戻るのを待たずに始めて下さい」
と、言い残し部屋を出て与兵衛の部屋に行くと、矢五郎が帳簿を見ていた。
「片付けられなくて・・・」
「使いようによっては大した価値の在る帳簿だな」
「盗まれないうちに仕舞います」

対座した兵庫に、
「永代橋の件だが、あの十人が 霊岸島にある四日市町の白子屋に殴り込みをかけたよ。その修羅場を彦四郎と岡っ引きの百吉と検分した」
「修羅場でしたか、十人はどうなりましたか」
「検分したまま言えば、ほとんど動かず横たわっていた者が十四人いた。顔に殴られた跡が在る者が九人居た。匕首は十、脇差が五振り使われていた。どうやら一人は逃げた様がった。ただし百吉はその時点では一人が来なかったのか、逃げたのか、分からなかったようだ」
「話は、そこまでですか」と兵庫が確かめた。
矢五郎はニヤと笑い話し始めた。
「わしと彦四郎はもしかすると・・と思い、深川の涛屋に行ったら、逃げた男、名を林蔵が匿われていたよ」
「その林蔵は碁四郎さんに鉄扇で額を打たれた男でしょう」
「そうだ、その林蔵を永代橋に近い涛屋に置いておくのは得策とは言えないので、中之郷元町の屋敷内に匿う事にし引き取り匿って居ます」
「わざわざ来られた訳は分かりました。それにしても殴り込むとは・・・私らが多勢を用意したのは、林蔵らを捕えるためではなかったのですが、林蔵らは嵌められたとしか考えられなかったのでしょうね」
「そのこと、こちらの狙いを言ったら驚いていたよ。それなら何故、相手が喧嘩支度をして待って居たのだといったがね。当事者でないと分らぬ事情があったのだろうが・・・」
「出入りで、十四人も死ぬとなると奉行所も動かざるを得ないでしょう。もし中之郷にも手が回るようでしたら江戸から出しましょう」
「顔を知る者は皆、死んだのでその心配は無いだろうが、浪人・間寺林蔵と身なりを改めさせておくよ」
「それでは、私は皆さんに挨拶してから出かけます」

 宴席は一階西側の客室二十畳を二つ使って行われていた。
もう挨拶は興覚めと思った兵庫は志津に行先を告げて神田庵を出た。

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Posted on 2018/09/13 Thu. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

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09/13 05:36 | edit

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