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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第112話 一抜けた(その25)】 

 兵庫は一旦自室に戻ったが、そこに志津の姿は無かった。重い刀を置き、明りの灯る宴席へと歩んでいった。
普段なら廊下の雨戸は閉め切られている時刻で西側の宴席は見えないのだが、今夜は出入りする女の姿も見えた。
それは在りし日、ここが料理屋だった頃に見られた景色だったのかもしれない。
部屋に近づくと、障子に志津と思われる影が写った。
そして、障子が開けられ志津が顔を見せた。
「旦那様、佐吉さんに預けてある千丸を引き取らないといけません。あとはお願いします」
そして志津を追いかけるように部屋から女たちが出て来て志津の後を追っていた。
その動きがどのように伝わったのか分からないが、隣の部屋からも女たちが出てきて、先に出た女たちの後を追った。

 兵庫が部屋に足を踏み入れると、そこに女の姿はなかった。
「鐘巻さん、何か在りましたね」と坂崎が聞いて来た。
「はい、でも酒を飲んでいる皆さんには話せませんので、明日の朝まで待ってください」
「折角の酔いを醒めさせたくない話ですか・・・」
「そんなところです」
「ところで、女たちは何処へ・・・」
「千丸の所です」
「千丸??・・赤子の千丸ですか」
「そうです。明日の朝、私は千丸のおしめの洗い方を房枝さんに教えるお役を承っています。そのおしめを交換するのを見に行ったのでしょう。娘たちの夢は嫁に行くことでしたからね。その先のことも考えて居るのでしょう」
「そうか、わしらもそろそろ夢を見る支度でもするか、寝床はここですか」
「ここと両隣で六十畳です。布団は今あいている部屋に積まれて居ますが、その前にここを片付けて、将来良い婿さんに成る人だと思わせて下さい」
 後片付けを皆ですることは養育所の基本であり、それを知らないものはいない。
それと男の中にも賄いを修行中の者も多く居た。
結局は使った食器類を洗い、拭き、綺麗に並べおえた。
そして近辺に住む者たちは志津や女たちに挨拶し、それぞれのねぐらに帰っていった。
結局、神田庵に泊まることに成ったのは草加宿、越谷宿から来た十二人だった。 

 兵庫は坂崎と乙次郎そして仙吉を自室に呼んだ。
「永代橋で捕らえた十人があの後、霊岸島四日市町(現中央区新川一丁目)の元料理屋・白子屋に殴り込みをかけたが、相手にも用意があった様で死闘となり相手五人全員を倒したが、殴り込んだ者も九人が助からぬ怪我を負っていたと検分した中川矢五郎さんの話です」
「十人で殴り込み九人が助からぬ怪我は分かりましたが、残りの一人はどう成ったのですか」と乙次郎が聞いて来た。
「ここまでは検分に立ち会った岡っ引きの百吉も居るので隠すことはしませんが、残りの一人についての行方を百吉は知りませんので私たちも知らぬことにします。いいですね。この肝心なことを明日起きたら忘れられては困りますので念を押します」
「先生、私たちは矢五郎さんがここに来たのを知って居ます。その後、先生が山中先生の所に出かけたことも知って居ます。何か在ったと思うので好きな酒も控えて飲んで居たのです」
「先生、乙兄ぃの云う事は正しくありません。奥様が何か起きたようなので、飲み過ぎないようにと釘を刺されたのです」と仙吉が暴露した。
「まあいい、酔って居ないことが判れば話しますが、このことはここだけの話にして下さい」
「分かって居ます」
「生き残った男はもしかすると、涛屋にと中川親子は思い、戻ってみると案の定匿われて居ました。男の名は林蔵で大した怪我をしていませんでした。涛屋では現場に近すぎるので、説得し今は中之郷元町の養育所内に匿われて居ます。ただ、十四人も死ぬような事件を奉行所が放っては置けないでしょう。場合によっては中川殿が検分に立ち会って居たことを奉行所が咎め、中之郷元町に何らかの調べをするのでは、これは私が感じたことです。その心配が在るので、奉行所の動きに先んじて林蔵を坂崎道場に移すことを考えています。矢五郎さんは林蔵を町人ではなく浪人に姿を変えさせるともいっていました。このことを、碁四郎さんに話したら、林蔵と立ち会った感触から林蔵は侍だろうと話して居ました。そう云う男ですが・・・」
「いつでも迎え入れる支度は出来ているので、遠慮せずに連れて来て下さい」
坂崎は応えた
「その時は、お願いします」

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Posted on 2018/09/15 Sat. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

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