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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第112話 一抜けた(その26)】 

 男たちが去ると襖が開き奥から千丸を寝かしつけた志津が姿を見せた。
「血なまぐさい話が有ったのですね」
「辛いのは心から喜ぶ者が居ない事件だと云う事です。十四人も死んだのに・・・」
「それ以上辛い思いをしたくないので、林蔵さんを匿うのですね」
「捕まれば死は免れませんからね。生きていれば世に役立つと信じるからです」
「一つ良い話をお聞きください」
「何ですか」
「房枝さんのお相手の元吉さんが竜泉寺町に隣接する御家人・春日様のお屋敷の貸家を借りられることに成ったそうです。房枝さんはそこから修行に通うそうです」
「御家人の貸家では家賃が高いでしょう」
「身請けのお金がそのまま残って居るそうですからその心配は、それより大家の春日様より暮らしが派手にならないように気を配らないといけないそうです」
「大家が貧しいと云うことは家賃以外にも、暮らしを良くするために助けられることが在るはずです。互いに助け合える仲に成ると良いですね」

 房枝の話を終えると志津から
「入谷から来た子供たちに明日から何処で修行をするか伝えて在ります」
「明日の朝飯は一緒に食べないと、父親の影が薄くなってしまいますね」
「それと文吉ら五人、そして小夜も新しい子供たちの世話をさせるため戻すと伝えて在ります」
「子供たちのことが済んだら、大人たちのことも考えないと・・・」
「今、入谷に居る、竜三郎・おとき夫妻を何処に移すお考えですか」
「聖天町の仕舞屋を店に戻して貰おうと考えて居たのですが・・・」
「何か、別のことでもお考えですか」
「私はこれまでに駒形を安く、向島を無償で手に入れました。もしかすると三匹目の泥鰌がと思える物件が在るのですが、それは、ほとぼりが冷めるまで待つことにします。予定通り聖天町をお願いしようと思って居ます」

 嘉永六年十二月十日(1854-1-8)、一夜が明けた。
兵庫はいつもの様に稽古着に着替え、雨戸を開けていった。
隣りの志乃の部屋から房枝が出て来て、
「先生、宜しくお願い致します」
「他人の子のおしめに触(さわ)れれば、自分の子のおしめは洗えますよ」と千丸のおしめが入って居る桶を渡した。

 裏の井戸端に出た兵庫は、千丸のおしめを入れた桶を受け取り、石を敷き詰めた流しの下(しも)に取り出し置いた。おしめは三枚在った。
「今は樽に汲み置きの水は凍ってしまうので空にしています。私が汲んで樽を満たしますので待ってください」と兵庫は井戸の水を汲んでは流しの下(しも)に置かれた樽を満たしていった。
 樽に水を満たすと兵庫は樽の栓を抜き、空になった千丸の桶に七分ほど水を汲み樽の栓をした。
「おしめは三枚在りますが、この内の二枚は濡らしただけですが、残りの一枚には塊が入って居ます。少ない水で洗う時の基本は汚れの少ない物から洗う事です」
 兵庫は湿ったおしめを桶の水で洗い絞ることを二枚分繰り返した。
そして残って居たおしめを広げると色の付いた塊が入っていた。
「これをまともに溜水に浸けるのはだめです。極力取り除いてから洗いましょう。その方法は考えて下さい」
兵庫はそう云い色の付いた塊を素手で取り除いて見せた。
「自分の子のものならできますよ」
そして桶に残って居た水を掛けながら更に揉み落とした。
「私はいつも、お湿りだけのものはもう一度、塊の付いたものは二度溜水で洗って居ます」
兵庫は言葉通り桶に樽の水を注ぎ、絞って置いた二枚のおむつを洗い絞った。その残り水で塊の付いていたおしめを洗い、絞り桶の水を捨てた。新しい水を桶に注ぎ、洗い洗濯を終わらせた。
「洗濯は必要です。それゆえに洗濯場は込み合います。これから住む所の事情に合わせてやり方を考えて下さい。私の相棒の山中さんは船宿を営んでいて洗濯は前を流れる神田川の豊富な流水でしています。この辺りでは田んぼがあるので、水のある時期は用水を使う事も考えて下さい」
「有り難うございました」
「朝の支度に行って下さい」

 この後、兵庫は洗濯ものを干し、剣術道具を身に付けると中庭に下りていった。
その激しい稽古は朝食を知らせる板木が打たれるまで続けられていた。

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Posted on 2018/09/16 Sun. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

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