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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第112話 一抜けた(その29)】 

 兵庫は自室に久蔵と繁蔵の二人を案内した。そして柏手を打った。
直ぐに女がやって来て、廊下に座り頭を下げた。
「千夏、佐吉爺さんを呼んで下さい。それと茶を頼みます」
「はい」と云い残し千夏は去っていった。
 最初にやって来たのは兵庫の妻・志津だった。
そして佐吉が現れ、それを見計らった様に五人の妙齢な女が茶を運び、座前に置くと引き下がっていった
「佐吉さん、数日間、同居人と成る久蔵さんと繁蔵さんです。慣れないことが多いのでお願いします」
「分かりました」
「久蔵さん、繁蔵さん。お二人がいまここに居る訳を先ず話しますので、お聞きください」
二人が座り直した。
「実は先日、入谷を任せている竜三郎さんが、店を繁蔵さんに戻したいと云って来ました。私はその話を受け入れることにしました。その事を山中さんに話し、久蔵さんにも芝神明に戻って貰う事で話がつきました。ただ、問題が幾つかあります。入谷では現在飯屋を営み、町にも受け入れられると同時に、貧しい独り者にとっては無くてはならない店に成って居ます。ですから無くすわけにはいきません。さらに入谷には喜重、島吉、圭次の三人が旅籠修行のイロハを学び戻って来ています。三人のこれまでの努力を無にする分けにもいきません。飯屋と旅籠を営むとなると少なくても暫く竜三郎・おとき夫妻に居て貰わないと味と値段が変わり屋台骨を揺るがしかねません。旅籠については未だ海の物とも山の物とも分からないからです。そして旅籠を営むには仲居も必要です。繁蔵さんここまでで、飯屋と旅籠を営むための問題を解かって頂けましたか」
「わしが出来ることは邪魔をせずに、見守ることぐらいだが、それではいつまでも竜三郎とおときを手放せぬと思うが・・・」
「繁蔵さんや、鐘巻様がわしら二人を呼んだと云う事は、既に算段が出来て居ると云う事だと思うのだが」と久蔵が先を呼んで言った。
「なるほど、先生、その算段をお聞かせください」
「私の算段ではありませんので、志津から話して貰います」
「簡単に申しますと、竜三郎さん、おときさん、仲居の役割をつくると云う事です。その算段は賄いと仲居の仕事が出来る娘を三人育て、喜重さん、島吉さん、圭次さんの嫁にすることです」
「あの三人に嫁・・・ですか」と繁蔵が呆れたように言った。
「繫蔵様、もう見合いは済んでおりますので壊さないようにして下さい」
「いつ見合いをしたのですか」とそこまで知らなかった兵庫が尋ねた。
「いつと云われても男と女が会えたのは昨晩しか御座いません。旦那様が矢五郎さんの話を聞き山中様の所に出かけていた留守中にです」
「よく話が纏まりましたね」
「女たちの夢は男たちの夢でも在ったのでしょう。目星を付けた女たち三人を部屋に呼び、
女には私が選んだ男で良ければ話をすると告げたら三人とも首を縦に振りました。そこで入谷の飯屋が旅籠を始めるのに賄いと仲居が必要で、直ぐ辞められては困るので旅籠修行した者と一緒になって頑張って欲しい。必要な賄いや仲居の仕事に就いてはここで優先的に教えるので心配しないように、と云っただけです」
「それで三人の女とは誰ですか」
「旦那様なら誰をえらびますか」
「嫁に行くのが褒美なら、此度のことで手柄をたてた珊瑚、乙女だが、もう一人は・・」
兵庫は思いを巡らしていたが、
「ススキがよさそうですね」
「珊瑚と乙女については同意見でご座いますが、ススキを選んだ訳は何故ですか」
「ススキは私より歳が上で、苦労もしているので上からものを云うのはおこがましいと・・・志津は誰を選んだのですか」
「私より歳が上の形です」
「志津は私より若く見えますが、確か同じ歳でしたね」
「はい、意見が合って良かったです」
「やれやれ、それで私はいつまでこちらの世話になれば良いのですか」と繁蔵が尋ねた。
「長くは待たせませんので、ここでの暮らしを楽しんでいて下さい」

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Posted on 2018/09/19 Wed. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

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