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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第112話 一抜けた(その34)】 

 夕飯を食べ終わった膳が台所に運ばれ、残飯が桶に集められそれは決められた場所に捨てられた。その桶は洗われて干され、明日の朝を待つ。
これと似たことが使った食器類でも仕分けされながら行われ所定の場所に納められていく。
かさ張る宗和膳は拭かれ食器納戸に仕舞われていった。
一方明日朝のために支度も行われた。

 これらのことが共同作業で行われ終わると、女たちは自分のことをするため自室へ戻って行く。
台所から潮が引くように女たちの姿が消えていったが、何人か残って居た。
それは近い内に元吉に嫁ぐため神田庵を出て行くであろう房枝と、似たような話が舞い込んだ珊瑚、乙女、すすきだった。
 舞い込んだ話とは、入谷の竜三郎が店を元の家主の繁蔵に戻したいと云う事から、その商いを継続させるとともに、旅籠稼業へと発展させるための役割・賄い仕事と仲居の仕事を担う者が必要になった。その役割を三人の女に任せると同時に容易(たやす)く挫折させないために、旅籠修行をした喜重、島吉、圭次に嫁がせると云う女たちにとっては夢の足かせを嵌めたのだ。
女たちはその役割の修行を日中に行い、それが終わると己の暮らしで果たさねばならなくなる七輪一つを使い、小さな鍋一つで飯を炊き、汁を作る技を覚え、習熟しようと灯火の下で房枝が行う段取りを見ていたのだ。

 男の子たちも手分けして、廊下の辻に明かりを灯しながら、人の居る部屋にも灯りを配り、雨戸を閉めていった。
兵庫と志津との時間はこの時より床に就くまでの間に成って居た。
「何をお考えですか」と虚空を見る兵庫に尋ねた。
「この家から男が姿を消しています。どうしたものかと・・・」
「女たちに不安を抱かせるのは良くありません。不安を取り除くため男を住まわせ、男を住まわせることによる不安は旦那様が担えば良いのです」
「それで良いのですか」
志津は返事の代わりに微笑み返した。
兵庫は再び虚空を見たが誰を神田庵に呼べばよいのか、思い当たる名が出て来なかった。
「寝ながら考えます」

 嘉永六年十二月十一日(1854-1-9)、寝所に入り込み顔に当たる冷気が布団のぬくもりを心地よくし、兵庫は目覚めても起きずに、明け六つの鐘が鳴るのを待った。
その間、兵庫は昨晩の続き、誰をここ神田庵の保安に当たらせるかに思いを巡らし始めた。  
そして、「富五郎にするか」と呟いた。
「決めたようですね。勘三郎さんと相性が良いので、良いのではありませんか」と隣で目覚めていた志津が同意した。
兵庫は志津が目覚めてるのを知って居て打診したのだが、神田庵の女主である志津に受け入れられた。
「早速、今日中にこちらに移って貰う事にします」
暫くして、明け六つの鐘の音が聞こえて来た。

 鐘が鳴るのを待って居た訳ではないが、明け六つの鐘で起きるのが決まりごとに成っており、静かだった神田庵が人の気配で満ちて来た。
兵庫は稽古着に着替え、千丸のおしめを洗い、干してから、剣術の支度を整え中庭に下りた。
男の子たちは、稽古着に着替え一階、二階の雨戸を開け、廊下に置かれた行灯の灯りを消し、行灯部屋に仕舞い、稽古道具を着けて中庭に下りた。

 女たちは部屋毎に当番が割り振られている。起きると部屋着に着替え、薄化粧を素早くし割り当てられている役割を果たしに行く。特に火当番は他の当番に先んじて竈などに火を入れなければならないので、実際は明け六つ前に起き、化粧を済ませるのが習いとなって居る。
そうした女の中でただ一人、房枝だけが別行動を許されていた。神田庵に通って来る元吉の朝食と弁当を、これから住む家で用意できる七輪で作ることだった。
元吉は既に房枝と暮らす家を神田庵に近い御家人の家の貸家を借りていた。
そしてこの日はいつもとは異なり、表口を勘三郎が開けて暫くするとやって来たのだ。
それは昨夜、夕飯を食べに来た元吉が、房枝に申し出て実現したことで、台所まで入って手伝った。そして、板木が鳴る前に元吉は食事を済ませ、弁当を持って独楽もを商いに出て行った。
 このことは、志乃から志津に伝えられていた。
志津はこれを聞き房枝が元吉の元へいつでもと告げると思い、その事を房枝に告げた。
その時、房枝の返事が「鐘巻先生のお陰です」だった。
志津が、その真意を確かめると
「元吉さんに、鐘巻先生が朝一番でおしめを洗い、干していることを言ったら、手伝うと云ってくれたのです」とこたえた。
志津はこのことを朝食が終わり子供たちが居なくなった部屋で、兵庫に伝えた。
「それは、千丸に礼を云わねばなりませんね」
「私は千丸を授けて下さった旦那様にお礼を申し上げます」

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Posted on 2018/09/24 Mon. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

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