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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第112話 一抜けた(その35)】 

 兵庫が普段着に着替え、障子を開け待って居ると、稽古姿の男の子八人と勘三郎が入って来た。
「兄上、母上、駒形経由で昇龍院に戻ります」と文吉が言った。
「皆、励んで下さい。勘三郎さん宜しくお願いします」
「出来るだけ早く戻って来ます」
「お願いします」

神田庵を出て行く大八車に積まれた荷は、下から昇龍院へ向かう六人(文吉、佐助、霧丸、雲丸、在吉、勘八)、駒形へ向かう梅次郎、中之郷元町に向かう音吉の者だった。
音吉の荷は駒形で下ろされ、駒形の者の手を借りて中之郷元町へ運ばれる段取りになって居た。
こうして、神田庵から男の子たちの姿が消えた。

 暫くして、入谷の竜三郎が繁蔵を迎えに来た。
更に遅れて、山中碁四郎が久蔵を迎えに来た。
「碁四郎さん、また、昇龍院を頼みます。先ほど子供たち六人を送り込みました」
「分かりました。男を出すばっかりではなく、誰か入れた方が良いのでは」
「勘三郎さんが戻ってきたら、聖天町に行き、富五郎さんに来てもらうよう、お願いすることに成って居ます」
「そうしないと、お尻に根っこが生えてしまいますからね」
こして、久蔵も出て行き、神田庵に残った大人の男は兵庫と佐吉爺さんの二人だけになった。
その佐吉も志津から赤子の千丸を預けられ奥に居る。
志津は志乃と千夏とで凡そ三十人ほどの女、娘を習熟度により三班に分けて仮名文字を読ませる練習をさせていたのだ。

必然的に門番は兵庫のお役に成った
待つこと久し、勘三郎が戻って来たのは四つの鐘が鳴って暫くしてからだった。
その勘三郎が
「先生、和尚さんが誰か一人手習いの師を寄越して欲しいと・・・断っては駄目だと思い引き受けてきました」
「分かりました。何とかします。私はこれから駒形に行き色々在ったことを内藤さんに話し、帰りに聖天町により富五郎さんを連れて戻ります」
「分かりました」

 駒形に入った兵庫は内藤に、神田庵で預かっていた男の子たちが昇龍院、駒形、中之郷元町に移ったこと、繁蔵が入谷に迎えられたこと、久蔵が山中さんの所へ移り、近々、芝神明町に戻ることを告げた。
「それらのことは、駒形に寄った者たちから聞いて居ます」
「新しい話ですが、高田寺の浮雲和尚から一人寺子屋の師を頼まれました。草加宿から金子鉄太郎と反町半四郎がやって来ることに成って居ますので、一人回す事にしますので、連絡をお願いします。私が連れて行きますので」
「分かりました」
「帰り道、聖天町により富五郎さんを神田庵に移します。男手が足らないので・・・」
「分かりました」

 段取り通り聖天町に寄った兵庫は、富五郎に神田庵の保安方を頼みたいと伝えると、富五郎は受け入れた。
午後に私物を持って来るように頼み、神田庵に何とか昼前に戻った。

 昼食後、富五郎がやって来るのを待って居ると、来たのか障子に影が映り
「元吉さんと房枝さんがご挨拶を致したいと参っております」
「通して下さい」
障子が開けられ、元吉と房枝が入り障子が閉められた。
「先生、奥様。房枝さんを妻に迎えたく、お許しを頂きたく参りました」
「許す許さないは、私たちが決めることでは在りません。房枝さんの心次第です」
「一緒に来たのですから、私たちは止めませんよ」
「有り難うございます。房枝が揃えた方が良いと言った物は用意しましたので・・・」
「どうぞ、連れて行って下さい」
「学びたいことが在れば、いつでも来て下さい」
「有り難うございます」
「荷物運びを手伝わせます」
「とんでもない。二人で運びます。毎日、重い荷を担いで歩いて居ますので、持ち上がる物なら運べます。背負子も持って来ました」
「それでは表まで見送らせて下さい」
元吉は志乃の部屋に置かれていた房枝の荷を、言葉違わず担ぎ上げて表出口に向かった。家じゅうの女たちが二人を見、その後をついていった。
元吉は荷を下ろすと土間に下り用意してきた背負子に括り付け、背負った。
「先生、奥様、皆さま有り難うございました。近くですので遊びに来て下さい」と云い、頭を下げた。
神田庵を出て行く二人を皆が見送っていた。その中には聖天町から来たばかりの富五郎もいた。
「皆さん、ここを抜けるのを力ずくで止めることは致しません。一抜けは房枝さんに許しました。皆さんも抜けさす日を夢見て修行を続ければここを抜け出す日が必ず来ますよ。さあ、後片付けが済んだら修行ですよ」と志津が解散を催促した。
残ったのは兵庫と勘三郎と富五郎だった。
「先生、俺たちは何を修行すればここを抜け出せるのですか・・・」
「その手の話は私にではなく志津に聞いて下さい」
二人は頷いた。

第112話 一抜けた 完

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Posted on 2018/09/25 Tue. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

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09/25 06:57 | edit

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