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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第113話 極月(その8)】 

 部屋に戻ると志津が戻って居た。どうやら千丸に乳を与え寝かしつけた後の様だった。
「どの様な話でしたか」
「覚えていますか、晦日の三左衛門のことを」
「はい、平九郎殿の出世話に欠かせない盗賊でしたね」
「火付け盗賊改めからの話ですが、その残党と思われる賊が現れたようです。それで町方。では無宿人狩りをすると云うので気を付けて欲しいとの連絡でした、間違われ捕縛された者たちを、いちいち引き取りに行くのも大変なので地天の半纏を着せることにしました」
「もし残党に三左衛門の身内の者が居たら、敵討ちを考えませんか」
志津が思いもしなかった投げかけをした。
「私を狙うと云うのですか」
「仇は旦那様ではなく、かわら版に載った若林平九郎ですよ」
「しかし、若林平九郎は養子に行き金子平九郎に成って居るので探せないでしょう」
「狙われるとすれば、瓦版に載った阿部川町の若林家ではありませんか」
「相手が盗賊となると、“坊主憎けりゃ袈裟まで憎い”でとばっちりを受ける者が出ることも考えなければなりませんか」
「このことを若林家に伝えに行って来ます」

 それから暫くして兵庫は地天の半纏を着せた勘三郎を供にして、浅草阿部川町の御家人若林家を訪れた。
玄関に出て来たのは女・恐らくは跡取りの嫁が頭を下げた。
「私は鐘巻兵庫と申し、以前こちらの平九郎殿に剣術を教えたもので御座います。少しばかり気に成る話を耳に致しましたので、忠衛門様にお取次ぎ頂きたく罷り越しました」
「お待ちください」と女は引き下がったが直ぐに足音がして忠衛門が出て来た。
「鐘巻さん、立ち話では済まないようなので上がって下さい」
「その前に、こちら様との行き来にこれに控えます者の様に、我が地天流の半纏を着た者が伺う事に成りますので、宜しくお願い致します。
「分かった。栄、五平分かったな」と周りに居る者にも声を掛けた
栄は「分かりました」と応え、五平と呼ばれた下男が頭を下げた。
「上がって下さい。栄、茶をたのむ」
勘三郎さん、戻って下さい、と云い兵庫は上がった。

 奥に通され部屋に入ると忠衛門の妻が頭を下げ迎えた。
茶が来るまで、無沙汰の期間を少しでも埋めるような話題がえらばれた。
それも運ばれて来た茶を飲み干すと、忠衛門が、
「気に成る話とのことだったが、何ですか」
「二年ほど前の話に成りますが思い出して下さい。晦日の三左衛門という賊を平九郎殿が仕留め、逃げた者も全員捕らえたと云う事でしたが、残党が居たのか同じ手口で盗人を働く者がいると云う事です。この賊は火盗改め方が追って居ます」と兵庫は様子見に息をついた。
「確かに、その話は記憶もあるが、残党の話は初耳だ。だが気に成るような所は特に在りませんが」
「この話は町方の者がわざわざ知らせてくれたのですが、それは当方で昨年暮れに開設した養育所で働く者たちの多くが無宿上りのため、盗賊退治のため近々始める無宿人狩りで捕縛されないようにとの心遣いだったのです。先ほど玄関先に居りました者が着ていました地天の半纏を着せたのは捕縛を免れるためで御座います。ところがこの話を持って家に戻りますと志津が、“賊の狙いは盗みだけではないのではと謎を掛けて来たのです」
と云い、忠衛門を見た。
「盗人に盗み以外の狙いが在るのか、冥途のみやげに教えてくれ」
「妻の話では、賊の中に三左衛門の縁者が居るとすれば、全滅させられたことから学ぼうとするだろう。その時役に立つのは事件の顛末を書き、江戸十で売られた瓦版で、手に入れただろう。それには火盗改めから逃れた三左衛門が駒形で若林平九郎に討ち取られたことが描かれて居ます。瓦版には平九郎が阿部川町に住んで居ることも書かれて居ました。その瓦版を見て、三左衛門を殺した者の名、住まいを知った縁者が敵討ちを考えても不思議ではないのではと云う事です。私がこちらに参ったのは三左衛門と立ち会った感触から侍だったと思うからです。もし縁者が居るとすれば敵討ちも考えられると思ったからです」

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Posted on 2018/10/03 Wed. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

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