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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第113話 極月(その10)】 

 神田庵に戻った兵庫は表口の番をしていた富五郎に
「明朝、若林家の形が来られるので奥にお通しするようにお願いします」
「分かりました。勘三郎にも伝えておきます。

 自室に戻った兵庫は志津に
「あす若林家の主・進之介殿が、こちらにご家族を受け入れられる用意があるのか確かめに参ります。若林家は隠居夫妻、跡取り夫妻それと小者一人の五人です。部屋の割り当てを決めて下さい」
「分かりました。ご家族には一階西の部屋を、小者方には佐吉さんとの相部屋をお願いします」

嘉永六年十二月十四日(1854-1-12)、が開けて時が流れた。
朝食が終わり、己の朝の役割を果たした一分の女たちが風呂屋に行くために表口に集まっていた。
そこに二人の侍がやって来た。
「若林様、お上がりください。ご案内致します」
と云いながら勘三郎は板木を叩いた。
上がった二人に、
「こちらにどうぞ」と出て来た女が招いた。
二人が六間廊下を歩いて居ると、北の部屋の障子が開き兵庫が姿を見せた。
その姿を見て、忠衛門が
「分かった。ここで良い」と前を歩く女に告げた。
女は歩みを止め、道を譲り通り過ぎていく二人に頭を下げ見送った。

 部屋の上座に座ると間を置かず茶が運ばれて来た。
女が出て行くと、忠衛門が
「ここに着くまでに多くの娘たちが目に留まったが・・・」
「忠衛門様、現在この家に住む者は四十五人で、そのほとんどが女で御座います」
と志津が応えた。
「若林様、これが妻の志津です」
「平九郎から伺っております。平九郎の兄・進之介でございます。此度はお気遣いいただき感謝しております」
 茶を飲み干したところで、
「これから、志津は娘たちの指導に回りますので失礼します。部屋の案内は私が致します」
「それでは、失礼いたします」と志津は挨拶し部屋を出て行った。
その志津に少し遅れて兵庫は立ち上がった。
「案内いたします部屋の造りはここと全く同じですから、場所を確かめたらここに戻ります」
部屋を出た兵庫が若林一家のために案内した用意した部屋に案内した、そこは西六間廊下に面する一番北側の部屋だった。
「ここがご家族に使って頂く部屋です。二間続き合わせて二十畳です。寝具や仕切りの屏風の類はこちらで用意いたします」
兵庫は中に入り何も置かれて居ない二間続きの部屋を確かめた。
「五平さんの部屋は、私の部屋の隣に住む佐吉爺さんと相部屋になります」
「進之介、わしに異存はない」
「私もです」
 部屋に戻る途中、寄った佐吉の部屋では、佐吉と千丸が遊んでいた。
「佐吉さん、内の五平を宜しく頼みまきす」と進之介が言った。
「楽しみにしています」
三人は部屋に戻ると兵庫は
「私どもから出す手勢を受け入れて貰う事、少なくとも夜間は極力お身内をこちらに移すことに同意して頂けたと考えて宜しいでしょうか」
「はい、宜しくお願い致します」
「それでは、その辺りの段取りを本日午後、中之郷の屋敷で談合します。ぜひ加わって頂きた」
「勿論、伺いますが中之郷は不案内です」
「駒形にお越しください。私が案内致します」
「お願いします。父上、戻りましょう」
「鐘巻さんに別件で頼みが在る。先に戻ってくれ」
「これ以上無理なお願いはしないで下さいよ」
「そう無理なことを言うな・・・」
「鐘巻様、容易いことでも安易に引き受けないで下さい」
「分かりました。頑張ってみます」
進之介は来た時の緊張した様子を消し、戻って行った。

 忠衛門は畏まっていた。
「何ですか、言って下さい」
「言うが、このことは進之介にも平九郎にも内緒にしてくれ」
「分かりました」
「わしは金が必要になり或る物を形に与兵衛から借りた。もし流れずに残ているか確かめて貰えぬか」
「お安い御用です。金を工面したのはいつ頃ですか。それと形に入れた品物は何ですか。帳簿を確かめてみます」
「嘉永五年の一月だ。預けた物は九寸五分(くすんごぶ)だ。金を借りた者の名は林忠衛門だ」
「名を変えましたか。もし在れば、お持ち帰りください」
「それで良いのか」
「構いませんよ。貪ってはいけないと子供たちに教えて居るのですから」
「そうか」
 探し物は与兵衛が残した帳簿の几帳面さにより難なく見つかった。
それを手にした忠衛門は嬉しさを隠さず帰っていった。
嘉永五年の一月に御家人の忠衛門が金を必要としたのは、恐らく倅・平九郎が旗本の家に婿に入ると云う異例な婚儀に使うためだったのだろうと思った。

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Posted on 2018/10/05 Fri. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

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