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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第113話 極月(その14)】 

 嘉永六年十二月十五日(1854-1-13)、が明けた。
朝食を済ませた兵庫と志津は出掛ける支度をして表口の帳場に出て来た。
今日は養育所関係施設で行う餅つきの初日だった。
出かけるのは深川の涛屋の子供預かり所と薬研堀の子供預かり所である。
そこには、養育所の子供が派遣され、預かり所に通う子供たちと遊びながら、その歳に見合った知恵を付けさせているのだ。
その派遣されている子供たちに会うのが本当の目的だった。

 神田庵を出た兵庫と志津の後ろにはおみよ・永吉親子とおしゅん・富吉親子、それと二つの柳行李を積んだ背負子を背にした勘三郎が付いて来ていた。
永吉と富吉に学問などを学ばせるため、中之郷の養育所に入れるためだった。
 中之郷の養育所の前まで来て、子供たちの母親は驚きの表情に変わった。
「ここはお武家様のお屋敷ではありませんか」
「そうですが、養育所で借りて居るのです。耳をすませば子供たちの声も聞こえませんか」
「奥さん心配ありませんよ」と勘三郎が云い脇門を押し開け入っていった。
それを見て永吉と富吉が勘三郎を追い、門内に消えた。

 広間に神田庵から来た者たちと養育所の留守居役・中川彦四郎と妻の雅代が向かい合っていた。
 兵庫は懐から書付を出し、彦四郎に手渡し、話し始めた。
「かねてより、神田庵に居る男の子の修行場として、駒形とこちらを考えていましたが、年頃も会い、知る者も居るこちらを子供たちが希望しましたので連れて参りました。未だ七歳と年少であるため通わせるのは控え、こちらに寄宿させ、学ばせる道を選びました。宜しくお願い致します」と頼んだ。
「永吉・・」と呼び彦四郎は子供たちを見た。
「私です」と一人が応えた。
彦四郎がもう一人を見ると
「富吉です」と応えた。
「私が怖いか」と彦四郎が額の傷と耳の無い片面を見せた。
「怖くありません」「鐘巻先生も・・・」と返事が返って来た。
思わず雅代が笑い、口を押えた。
「鐘巻さん、この子たちのこと、引き受けました。深川が待って居ますよ。急いで下さい」
「それでは、私らはここで失礼します。永吉、富吉、頑張りなさい」
「はい」「はい」

 中之郷の養育所を出た兵庫は、彦四郎の言葉とは違い急がず歩いた。それは志津が身籠って居たからだ。
それでも四つの鐘が鳴った直ぐ後には深川の涛屋に着いた。
そこには子供たちの母親も、涛屋の者たちも居た。
そして支度は出来ていた。
兵庫がつき手、志津が返し手で始められた。
子供たちにとって、餅つきは初めてだった。
ほぼ、つき上がった頃
「皆で、かかさまとお餅をつきましょう。つく方は私が介添えします。順番は大助、柿次郎、桐丸そしてお友達です」
こうして大助、柿次郎、桐丸が兵庫の介添えで杵を持ち、志津が返し手を勤めた。
「今度は男の子とお母さんとで、誰からにする」
「けんちゃん、しょうちゃん、つねちゃん、しずちゃん、はなちゃんの順番だよ」と大助が躊躇う子供に言った。
こうして男の子に杵の重さを感じさせた後、兵庫の介添えで餅をつき、子供の母が返し手を担い餅つきの真似ごとをした。
女の子は杵を持つよりも返しの手の真似ごとを母の介添えでやり楽しんだ。
そして、少しばかり時間を多くかけて一臼をつき終わった。
「あとは涛屋の皆さんで楽しんで下さい。子供たちはお供え餅造りを楽しみます」

 つき上がった二升の餅は家の中に運ばれ、兵庫の手で小分けにされいくつか出された文机の上でお供え造りが始められた。
それは親子の楽しいひと時だった。
「今日はお休みを頂いたのですか」と志津が尋ねた。
「いいえ、涛屋の重吉さんが店の主に頼んでくれたのです。永代橋を渡って深川に来るお客様に嫌がらせをしていた者たちを涛屋に居た網吉さんとお仲間が追い払ったことは皆さん知って居たので、こちらに来ることを許してくれたのです。網吉さんは子供たちを守ってくれた父親代わりだったのですが、出て行かれたと伺っております。ご存知ですか」
志津は応える代わりに兵庫を見た。
「今どこで何をしているかを知って居ます。こちらに落ち着く機会を逸したので旅に出たのです。網吉さんが皆さんに好かれていたことは話しておきます」

 兵庫と志津は涛屋で子供たちとお昼を食べた後、次の目的地薬研堀に向かった。
その背中を、餅をつく杵の音が押していた。

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Posted on 2018/10/09 Tue. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

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