FC2ブログ

10 « 1.2.3.4.5.6.7.8.9.10.11.12.13.14.15.16.17.18.19.20.21.22.23.24.25.26.27.28.29.30.» 12

洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

プロフィール

最新記事

最新コメント

月別アーカイブ

カレンダー

【鐘巻兵庫 第113話 極月(その15)】 

 薬研堀の子供預かり所での餅つきには、深川より多くの子供たちが居た。
その反面、子供たちの親の姿は無かった。
そのため志津は全ての子供たちの母代わりとなった。子供たちと一臼つくとお供え餅造りをするのは同じだった。残りの餅は船宿・浮橋から来た船頭衆により搗かれていった。
この預かり所に養育所から派遣されて居るのはお玉・六歳、ただ一人だった。
そのお玉の甘え方がこれまでないほどだった、
お玉には甘えられる者が預かり所には居なかったのだ。

 お玉が派遣されたのは、預かり所の世話役・猪瀬阿佐の孫二人を養育所から薬研堀に戻す時に遊び相手が出来るか否かに不安があり、仲良しだったお玉が同道したのだ。
勿論預かり所にやって来る子供たちに遊びを通じてその歳にふさわしい知恵を身に付けさせるためでもあった。
その目的は果たされていた。ただ、問題が生じた。
お玉だけ、甘えられる相手が近くに居なくなったことだった。猪瀬の孫二人は婆様に、預かっている子供たちは家に戻ればそこには母が居たのだ。

 お玉の甘え方は、志津や兵庫にもお玉が孤独な時を過ごして来たことを悟らせた。
兵庫は志津に甘えるお玉を見て、猪瀬阿佐の傍に行き話し掛けた。
「阿佐殿、鈴や多美に友達は出来ましたか」と遠回しに尋ねた。
「はい、お玉ちゃんのお陰です。他所の子たちと遊ぶことを覚えたようです」
「それは良かった。お玉に気の病が感じられますので、引き取らせて頂きたいのです」
「そうですね。可哀想なことをしてしまったようですね」と阿佐は志津に甘えるお玉を見て呟いた。
「それでは、今日、引き取らせてただ来ます」
立ち上がった阿佐が、外に出て餅つきを見る子供たちに、
「みんな、お玉ちゃんが、今日、お母さんの所に戻りますよ。さよならを言いなさい」
これに一番驚いたのはお玉だった。志津を見て、志津が頷くのを確かめ、やって来た子供たちと向かい合った。
「みんな、仲良くしてくれてありがとうございました」とお玉の方から挨拶した。
「お玉ちゃん」「お玉ちゃん」「また来てね」が飛び交った。

 暫くして、借りた背負子にお玉の荷物を乗せ、背負った兵庫を先頭に、志津と手を繋ぐお玉が薬研堀を背にした。
途中、駒形に寄ると、
「お玉ちゃん、お帰りなさい」と内藤虎之助が声を掛けた。
「今日から、神田庵に泊ります。そこにはお姉様が沢山居るのでお泊りに行くのが楽しみです」
「お玉は、一人では眠れないのです。必ず誰かの布団の中に潜り込むのです」
と志津が説明した。
「あの衝立、母上様が書いた歌ですね」と目ざといお玉が聞いた。
「読めるかな」
「全部は読めないけれど、覚えているから読める。やまざとはふゆぞさみしさまさりけるひとめもくさもかれぬとおもえば・・」
「たいしたものだ」
「内藤さん、餅つきの段取りはどう成りましたか」と兵庫が話題を又変えた。
「明日から、道具を持ち回りで行いますので、一日一か所に成ります。その順番を向島、押上、中之郷、昇龍院、駒形、神田庵にし、日延べに成っても順番は変えないで続けて下さい」
「明日は、向島ですね」
「そうなります。阿部川町のことについては何も届いて居ません」
「万が一ですからね。明日、何か起きましたら向島までお願いします」

 駒形を出た兵庫らはどこにも寄らずに神田庵に戻って来た。
「お玉ちゃん。荷物も一緒に来た所を見ると、ここで暮らすのかな」
「勘三郎様、元気になられたのですね」
「今出かけているが富五郎も元気になってここに居るよ」
「良かったね」
「ありがとう」
「お玉、千丸と遊んでいなさい」
「は~い、母上」
お玉は「千丸ちゃん」と呼びながら、初めての家の奥へと入っていった。
その歩みは中庭を右に見ながら六間廊下を進むものだった。兵庫と志津は中庭を左に見ながら歩み、お玉が各部屋を寄り道しながら探す声を聞きながら部屋に戻った。
 そして四半刻ほど経ってからお玉が千丸を呼ぶ声がして、隣の部屋の前あたりで止まり、「千丸ちゃん、み~つけた~」
そしてお玉は夕食の板木が打たれるまで、兵庫の前に姿を見せなかった。

 ←ボタンを押して頂ければ励みになります。

Posted on 2018/10/10 Wed. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

この記事に対するコメント

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

# | 
10/10 05:52 | edit

コメントの投稿

Secret

トラックバック

トラックバックURL
→http://tokinotsuribito.blog79.fc2.com/tb.php/3642-2333fccb
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)