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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第113話 極月(その17)】 

 偶然とはいえ壁越しに阿部川町の若林家に賊が押し入る日日が分ったことは、戦いにおいて勝敗を決定づける大きな情報だった。
ただ、一方的な守りであることに変わりはない。
若林家に押し入る賊が屋敷の検分に来ると云う話も有るため、その者を逆に付け相手の住処を知り、賊の人数を知れば、今度は碁四郎が言う様に逆に攻め入ることも出来る。
敵を最大限知る機会が巡って来たのを知った兵庫は与えられた残りの期間を無駄にしないように総力を注入することにした。

「碁四郎さん、若林平九郎に成って安倍川町の屋敷に戻り、中に居る者に目立たぬようにさせて下さい。これから人を集めますが集合場所は阿部川町に隣接する了源寺門前町の茶店にします」
「分かった」碁四郎は駒形を出て行った

 この茶店は、東都組の住処だったが、兵庫等が追い出し、持ち主である了源寺の和尚・快延に頼み借りた。それを新発田藩を浪人となり兵庫を頼り江戸に出て来た山内家の者たちに任せた、知り合いの店だった。

「これから戻って、都合の付く皆さんを茶店に行かせて下さい。私は聖天町、神田庵、昇龍院によって茶店に行きます。矢五郎さんはここから真っすぐ茶店に行き、集まって来た者に役割を与えて下さい。中の郷には甚八郎、お前が知らせなさい」
「分かりました」
こうして駒形にやって来た者たちは出て行った。

 兵庫は途中、聖天町の仕舞屋により一人残って居た賄いの栄十郎に戻った者で都合の付く者は了源寺門前町の茶店に集まるよう告げ神田庵に戻った。
 既に忠衛門・早苗夫妻は阿部川町の屋敷に戻った後で、その訳を志津も保安方の
勘三郎も聞いていた。
それを確かめると兵庫は了源寺門前町の茶店が集合場所に成って居ることを告げ、集合場所へ出掛けた。

 養育所の男たちが集合場所の茶店に向かい始めた頃、阿部川町に二人の男が辻番所にやって来て尋ねた。
「若林様のお屋敷はどちらでしょうか」
「次の道を左に曲がり、角から三軒目のお屋敷で、門内に植えられて居る見越しの松が見えます」
「ご丁寧に有り難うございます」
「いいえ、一日中一言も話さずに終わる日も在るので、有難いくらいです」
「それではもう一つお尋ねしても宜しいですか」
「はい、どうぞ」
「若林平九郎様が近頃お見えにならないと私の主が心配して居るのですが、何かございましたか」と云い、懐に手を入れ財布を引き出して見せた。
辻番は「これはどうも」と云い、暗に何かを知っている素振りを示した。
男は財布から一朱銀を摘まみ出した。
「あくまでも噂ですが、外で遊び散財をしたため、外出できなくなったと云う話です」
と云い、辻番が手を出すと、その手の平に一朱銀が乗せられた。
男たちは、それで納得したのか教えた道に消えていった。
「網吉さん追って下さい」と辻番は番所の中に声を掛けた
「上手く行ったな弥一さん」出て来た網吉が云った。
二人は辻番の役を金を払ってやらせて貰っていたのだ。
網吉が二人を追っていくと、二人は三軒目の松を見上げて通り過ぎていった。
そして、何処から出て来たのか中之郷の番士の心太が網吉に加わった。

 賊の仲間と思われる二人は東へと歩き、新堀川に出ると暫く川沿いを南へと歩き橋まで来ると川を渡り、更に東へと歩き日光街道へ出た。
街道を南へと歩いていったがその歩みが茅町まで来ると仏具屋の前で僅かの間だが足を止め、また歩き始めた。
そして日光街道から脇道に入って行った先は平右衛門町の裏店だった。
二人がその裏店の別の家に入って行くのを確かめた網吉と心太はその場を立ち去り、風呂屋の前までやって来た・
「心太さん、この風呂屋、女湯の二階が私の寝床です。私の顔を阿部川町に晒すのはこちらの見張りに支障をきたす恐れが在りますので、私はこちらの見張りに専念すると伝えて下さい」
「分かった」
心太は急ぎ足で阿部川町に戻っていった。

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Posted on 2018/10/12 Fri. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

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