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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第113話 極月(その20)】 

 七人の姿が二階から消えるのを待って網吉は窓際により、何か合図を送った。
その合図を受け取ったのは、平右衛門町の見張りのために加わった心太と三五郎だった。
 湯屋を出て来た七人が何処に向かうかが問題だった。
湯屋を出た七人の先頭に平右衛門町の裏店の住人の二人が立ち、歩き始めた。
「先生、ねぐらでは在りません。街道の方に向かいました」
碁四郎は腰を上げ、刀掛けからごつい刀を取り二階から下りていった。
七人は急ぐ様子を見せず、人の流れに乗って歩いて居た。
七人が日光街道に出ると、碁四郎は足を速め己も街道への出口に立ち、七人を伺った。
そこは茅町で、今日の昼過ぎ阿部川町の若林家を確かめに来た二人が足を止めたと報告されていたからだ。
そして、確かに七人は僅かな時間だが止まり、流れを乱した。
そこは仏具屋の前だった。
碁四郎は何か奇異を感じ、七人を付ける心太と三五郎に歩み寄り、
「私は戻りますが、一人は先回りをして七人が若林の屋敷を確かめに行くことを中川殿に告げなさい」
「分かりました」と三五郎が街道の中ほどに出て七人を追い抜いていった。

 浮橋に戻った碁四郎は遅れて居た夕食を食べ終わると
「婆様の所に行って来る」と云い部屋を出た。
そしてその婆さんの部屋の外まで行くと
「婆様、浮世のことについて、教えを頂きたいので参りました」
「浮世のことなら、自分のかみさんに聞きなさい」
「聞きたいのは山々なのですが、“そんなことも知らないの”と言われそうなので、少し知恵をつけてから聞きたいのです」
「分かった、入りなさい」
お蔦婆さんの前に畏まった碁四郎は
「船箪笥の方は如何ですか」と尋ねた。
「久蔵さんから頂いたので急ぐ必要は無いから、のんびり謎を解くよ。それより浮世のこととは何ですか」
「長い話に成りますので触りだけ話します。実は盗賊・晦日の三左衛門の残党らしき者たちが現れ、平右衛門町の裏店にねぐらを構えたと思ってください。その賊の押し込む先が茅町の仏具屋らしいのです。それも大晦日です、除夜の鐘、年籠(としごも)りの人。年が明ければ恵方参りの人も出る。押し込めるとは到底思えないのですが、平右衛門町の裏店に入った七人は仏具屋を見ていたのです。年に一度しか来ない大晦日に、狙われる隙が生じるのですか。教えて下さい」

 話を聞いていたお蔦が微笑んだ。
「寺に入り坊主の修行をし、年籠りも知っているのに、寺は有難いことを教えないのだね。“仏作って魂入れず”だね。でも知らないことが在るのに気付いたことは偉いよ」
「やはり、押し込める隙があるのですか」
「こんな習わしが何時で来たのか知らないけれど、年籠りに出かける者たちの為に、晦日の闇夜に明かりを灯し、時には御接待をすることが習わしとなったのです。今ではお寺あっての仏具屋が当番でその習わしを引き継いで居るんだよ。だから押し入るのではなく、招かれて入るんですよ。分かったかい」
「分かりました。婆様、有り難うございます」

 碁四郎は浮橋を出ると富士の湯により網吉に兵庫の所に行くことを伝え、次の寄り道先の駒形の養育所に入った。
内藤に
「平右衛門町の情報は入って居ますか」
「平右衛門町の裏店に男二人が入り、平右衛門町の動きを山中さん、網吉、心太、三五郎それと棒手振りの大二郎で見張るという話までです」
「平右衛門町に入ったのは七人に成りました。いまその七人は恐らく若林家に向かっているところだと思います」
「分かりました。他に?」
「もしかすると賊の狙う商家が茅町の仏具屋ではないかと思われる節が在るので、鐘巻さんと相談し、鐘巻さんから話して貰います」
「分かりました」

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Posted on 2018/10/15 Mon. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

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