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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第113話 極月(その23)】 

 兵庫等五人が了源寺の茶店で待って居ると矢五郎が急ぎ足でやって来た。
「奴さんたち、おそらくこの茶店に来ますので、出て行けばすれ違います」
そう伝えると矢五郎は了源寺の境内へと入っていった。
「行きますか」と兵庫は腰を上げると他の四人も腰を上げた。
茶店を出て行くと、品の悪さを隠しきれない男たちがやって来た。
「私が乱暴を働きますので、止めて下さい」
「分かりました」

 兵庫は広がって歩いて来る五人の男たちの一人に目を付けた。
「無礼者!」
兵庫の抜き打ちが男の鼻先を走り、驚いた男は立ち止まった。
「おやめください」の声で男の頭上に振り下ろされた刃が髷に振れ止まった。
「先生、お納め下さい。何か粗相が御座いましたか」
「小石を蹴られた」
それを確かめ新藤が、
「お主無作法な歩き方をするからだ。血は出ておらぬ。命拾いしたな」

 それ以上のことは起こらずにすれ違い、兵庫たち侍は参道を出、行儀の悪い男たちは茶店に入った。
「皆、蕎麦だ」と湯屋で四郎と名乗った男が頼んだ。
そして蕎麦を待つ男の一人が石を蹴った男に
「お前斬られているぞ」と叫んだ
それで皆が男の頭を見、本人は頭に手をやった。
指で摘まんだ髷の刷毛先の一分が髷本体と離れたのを感じると「ああ~」と云いながら摘まんだ指を目の前に持って来た。
兵庫が寸止めした刃は男の刷毛先の厚みの半分ほど切り込んでいたのだ。
「何という野郎だ。次に会ったら・・・」
「どうする」
「逃げます。次は髷ではなく命を縮めかねませんからね」

 茶店を出た兵庫等は、茶店で蕎麦が出来る前に若林屋敷に入っていた。
その時、主の進之介は出仕中で不在だった。
兵庫たちは上がらずに、玄関に若林の者たちを集めた。
「若林家の皆さん、現時点で分かって居ることは二十五日のおそらく夜半に七人の賊が夜討を掛けるだろうと云う事です。お願いは出来るだけ早く若林家の方々は屋敷を出て頂きたいのです。残って頂くのはどのような結末になるか分かりませんので進之介殿だけです。今日はこれから四半刻後に外の見張りから合図が在りますので、ご隠居ご夫妻と五平さんに出て頂きます。先ずはその支度を済ませて、玄関口に出て下さい。私が護衛いたします。同道した四人は今夜の宿直番です。それでは支度をお願いします」
 荷物は既に神田庵に届けてあるため、外出着に着替えるだけで三人は直ぐに玄関に戻って来た。
あとは、外からの合図を待つだけだった。
「相手は七人だそうだが、こちらは五人か」
「いいえ、こちらは実戦経験の在る侍が七人で、相手は侍崩れが一人とやくざ者六人です」
「皆斬り倒すのか」
「いいえ、極力事件に成らないように、追い返すだけです。その方が若林家にとって良いと云う判断です」
「事件が起きると後々面倒なので、事件が起こらないことは願うところだが、相手が諦めなければ、事件を先送りするだけになる。それは困るのだ」
「七人の内、平九郎殿に遺恨を持つ者は一人だと思います。残りは晦日の押し込みで稼ぐ金です。明日の夜討以降も七人の見張りは続けます。晦日の押し込み時には賊を追っている火盗改めに出張って貰い、我々も手助けし一網打尽にします。頭目は軽くて遠島です。先の心配は要らないでしょう」
「あの~、私はこちらに主人と残ってはいけませんか」
「お気持ちは分かりますが、襲撃に備え守るのは御家だけにしたいのです。お家を守るとは先ずは主の進之助殿です。ですから進之介どのにも屋敷を出て貰いたいのですが、もしこの屋敷内で死人やけが人が出た時に届け出する主が居ないと、目付の詮議に苦しい言い訳をしなければならなくなるので、新之助殿には残って頂きます」
「分かりました」

 暫くして門が叩かれた。
「それでは、出ましょう。私は午後、新之助殿と今日明日の相談をするため、こちらに再度参ります」
四半刻後何事もなく若林の隠居夫妻らは神田庵に入った。

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Posted on 2018/10/18 Thu. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

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