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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第113話 極月(その25)】 

 帰り道、兵庫が常吉に、
「中之郷に寄り中川さん親子に、押上の甚八郎に、明朝食後に駒形に集まる様に伝えて下さい」
「分かりました」

 神田庵に戻った兵庫は、若林進之介と話し合ったことを両親の忠衛門・早苗夫妻に伝えた。
部屋に戻った兵庫は奥の部屋の衝立の影から一つ重い柳行李を取り出し蓋を開けた。
中に納められているのは主に戦道具である。
兵庫は先鋒を引き受けるため、悪くすれば賊七人を相手にしなければならない。狭い庭では逃げ場がないため、かすり傷を受けることは避けられない。
兵庫は十手、鉢巻き、籠手、脛当て、鎖帷子を己の脇に置き、行李の蓋を閉じた。

 そして嘉永六年十二月二十五日が明け、時が流れ兵庫は駒形の養育所に居た。
集まったのは根津甚八郎、中川矢五郎・彦四郎親子、内藤、兵庫の他に鼻の利く山中碁四郎が来ていた。
「先ず、お願いですが、若林家の主が勤めから戻り四半刻経ったら賊の目が無いのを確かめ屋敷の戸を勘三郎さん叩かせて下さい。奥さんを神田庵に移すためです」
「分かった。勘三郎を茶店まで寄越してくれ」と矢五郎が同意した。
「次のお願いですが、今夜賊に立ち向かう者は昨日伝えた七人の他に、今日も主の供をしている常吉さんと賄いで入っている卯吉さん、それと主の進之助殿十人になります。その者たちが使う武器防具を駒形に集め、棒手振りを使い運び込んで下さい。出来れば新しく加わった者たちの為に鎖帷子、鉢巻き、籠手、脛当ても揃えて下さい」
「防具なら、新発田から来た者たちから戻されたものが在りますので、こちらで用意します」と内藤が云った。
「押し込みに付いては追い払うと聞いたが、どうするのだ」と矢五郎が尋ねて来た。
「色々考えたのですが、賊が邸内に入ったところで、一気に掛かり戦うのを諦めさせます」
「諦めるかな」
「こちらは刀を抜きませんので、賊は命の心配が無いと思えば、無用な抵抗はしないでしょう。これは以前、久蔵一家、繁蔵一家を討ちすえた後、こちらが敵意を見せなかったことで、その後抵抗しませんでした。それと抵抗出来ないように昨日茶店前で薬を飲ませておきました。私の顔を見せれば敵わないと察しますよ」
「そう言えば茶店の主から、鐘巻さんが賊の一人に振り下ろした刀で髷の刷毛先に切り込みを入れた話を聞いたが、それか?」
兵庫は笑って応えた。
「兵さん、待ち伏せされたと云う記憶が残ると晦日の仕事を考え直すのでは在りませんか」
「その心配は待ち伏せされた訳を教えれば消えるでしょう」
「その様な、訳が在るのですか」
「はい、それには今回平九郎役を演じる甚八郎の演技次第ですが」
「えっ?・・どう云う事ですか。先生」
「待ち伏せ出来た訳を平九郎に教えたのが賊自身だと教えてやれば納得するでしょう」
「えっ???・・」
「甚八郎、平九郎に成りきって私の話を聞きなさい」
「はい」
「賊の仲間が、辻番に化けた弥一に若林家の所在を尋ねたこと。さらに“平九郎様が近頃お見えにならないと私の主が心配して居るのですが、何かございましたか”と尋ねた。これを私たちが知ったから、若林家に人を入れ用心して居るのです。平九郎、お前を心配してくれる何処かの主が居ると思うか」
「居ません、今は知りませんが、若林の家に居た頃の平九郎さんは身勝手でしたから」
「平九郎、そんなお前の友達にはどのような者が居た」
「まともな者は・・酒代を稼ぎにご注進する者ぐらいでしょう。そうか何となく判って来ました。私・平九郎が若林の家にいないことは私の知人なら知って居ます。知らないと云う事は昔の因縁。思い出せる因縁と言えば晦日の三左衛門ぐらいですね」
「なるほど、偽の平九郎さんに、屋敷と平九郎さんのことを伺って居る人相の悪い者たちが居たと御注進する偽辻番の弥一さん居たか・・・偽の平九郎さんが上手く演じれば半信半疑だが納得してくれそうな気もします」と碁四郎が納得してくれた。
「筋書き通り事が運ばれた証として、門外に提灯の火を灯しますので蕎麦でも食べに来て下さい」
「分かった。提灯の火が灯らなくても様子を見に行くよ」と矢五郎が云った。

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Posted on 2018/10/20 Sat. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

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