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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第113話 極月(その26)】 

 身支度を整えた兵庫、甚八郎、彦四郎の三人が待ち合わせの場所にしておいた駒形の養育所に集まったのは八つの鐘が鳴った後だった。
帳場には用意され、集まっていた防具や荒縄を巻いた木刀に竹刀、包帯や血止め薬、百目ローソク、燭台、草鞋、拍子木、兵糧のためか蕎麦打ちの道具や丼まであった。
それらを検分した兵庫が、
「内藤さん、宜しくお願いします」
「はい」
 駒形と阿部川町は近い。兵庫は弥一が居る辻番の前を通った。
「敵はまだ寝ているようですよ」
「どうも、ご苦労様です」
兵庫等三人は若林屋敷に入った。

 時は流れ、棒手振りが荷物を運び込み、主の進之介が仕事を終え戻り、主の妻・栄を勘三郎が迎えに来て邸内は男の守備隊だけになった。
昨夜の宿直番での寝不足を取り直すため隠居部屋で寝ていた者たちが起こされた。
「これから守備場所を決め、模擬訓練をします。一班は進之介殿と常吉さんで主の部屋、二班は平九郎殿の影武者役の根津さんと新藤さんで玄関、三班は中川さんと金子さんで勝手口、四班は浜中さんと反町さんで廊下、私と卯吉さんは外にします。取りあえず場所を決めましたが、この家の中で二十人近い者たちが争うのは同士討ちも起こりかねませんので、私の合図で外に出て戦って下さい。私たちの方が腕前で勝って居ますが、数でも勝って居ることを見せることで、相手の無用な抵抗を無くせます」
これに、皆が頷き同意を示した。
「今夜は二十五夜で月の出は子の刻を過ぎた頃で賊が押し入る頃は闇夜です。賊も用意してくるでしょうが、こちらでも用意することにしました。家の中を明るくします。その灯りが外に漏れないようにしたいので、これから戸締りをして、外の明かりが入り込む節穴、隙間が在れば紙を有り、墨を塗って下さい」
 こうして雨戸などに目張りがされた。
「次に屋敷内から外に打って出る訓練をします。皆さん、草鞋を履いて下さい。私は外に居て賊全員が邸内に入ったら拍子木を打ちますので、戸を開け素早く外に出て戦いに加わって下さい」
 何度か拍子木が打たれ飛び出す訓練が行われたが、兵庫としては不安だった。とくに賊と一番接近する可能性の高い玄関から飛び出す甚八郎と新藤が賊との間合いを計り損ねる恐れがあった。
「甚八郎と新藤さん、百目ローソクを高く背後に立て、その灯りより身を低くして飛び出し賊の目を灯りに向けさせて下さい。決して灯りを見ないようにして下さい。廊下の方も賊と灯りの間に身を置かないように、ローソクを高く、身を低くしてください。雨戸の落しは掛けないで下さい。勝手口の方は表まで来るのに少し遅れるので、途中で声を上げ賊の目の分散を図って下さい」
 そして訓練のやり直しが何度か繰り返し、日中の稽古は終わった。
「常吉さん、夜食の蕎麦を打って下さい。終わったら外に居る皆さんも来るそうですから打てるだけお願いします」
「やっと荷物の中に丼が入って居た分けが判りました」

 明るい内に夕食が終わり片付けを侍までが手伝うのを進之介は見ていた。
片付けが済むと兵庫が、
「五つの鐘が鳴るまで、特に用が無い者は休んで下さい。その後、戦支度をして下さい。防具を着ける時は手伝います」
これに従い兵庫以外が隠居部屋に入った。

 進之介に招かれた兵庫は話し相手になった。
進之介にとっては信じられないことが続いているので二人きりになると尋ねて来た。
「鐘巻殿が動かしている者たちの人数は並の旗本以上です。なぜ出来るのですか」
「世の中の常よりは下の者には厚く、上の者には薄く配分しています。それと養育所の仕事は弱い者たちに喜ばれるのでやりがいがが在るのです。ですから皆さんにとっては養育所がお家と云えます。お家のためには力を合わせることを厭(いと)いません。問題は養育所を運営する資金ですが、“金は天下の回り物”も、まんざら嘘では在りません。多くは出が先ですが遅れて埋め合わせされます」
「今回もですか」
「それは判りません。ただ、まだ埋め合わせの目は残って居ます」
「それを伺い少しばかり肩の荷が下りました」
この会話が、少しばかり下りた進之介の肩の荷を、もう少し下ろさせようと思う切っ掛けを兵庫に与えた。

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Posted on 2018/10/21 Sun. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

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