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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第113話 極月(その27)】 

 兵庫と進之介の話しが今夜起こることから大きくそれ、笑いさえ生じていた。それを消す五つの鐘の音が聞こえて来た。
そして地天の半纏を着た常吉が無骨な防具類を持って来た。
「御仕度を」と常吉が促した。

 支度を済ませた進之介が常吉と隠居部屋に行くとそこには揃いの地天の半纏を着、袖口からは黒漆の籠手を光らせた男たちが立っていた。
「これから夜間訓練をします。拍子木が鳴ったら素早く飛び出す。勝手口から来る者は存在を音で知らせる。相手は夜目に慣れて居るのでこちらも無用に灯りを見ないように。それでは守備について下さい」

 こうして、明るい内に行った訓練が夜間にも繰り返された。
そして甚八郎が、
「先生、各班の一人は事前に外に出て潜んで居る方が良さそうです。少し寒いですが我慢します」
「それでは、そうしましょう。屋敷の中に残る者は戸を開け邸内を灯りで照らしてから、加わって下さい。進之介殿は玄関までお願いします。人手が途絶える四つまで屋敷内で待ちましょう」

 四つの鐘が打たれた。四つは町の木戸が閉まるため、大方は木戸が閉まる前に帰宅するのだが、そうしない者たちも居た。こうした連中は四つに閉まるとは考えず四つまでは開いていると鐘が鳴るまで宵越しの金を持たないように飲むのである。こうした連中の大半は閉められた木戸の脇木戸を開けさせる常連で何も調べられない。結構多く時間が掛かるからだ。遊んだ場所から幾つもの木戸を開けさせ家に戻る猛者も居るから、木戸番が人心地つけるのは四つの鐘が鳴ってから四半刻経ってからである。
この辺の事情は遊び人の常識で、いちいち木戸番の手を煩わせずに木戸を通らずに帰る通人も居た。

 そしてその通人の一人・常吉が
「先生、そろそろかと・・」
「寒いですが、早く来てもらえたら優しく相手をしてあげて下さい」
 兵庫が外に出てその寒さで顔を洗ったが、真まで冷える前に拍子木の音が聞こえて来た。
江戸で夜の四つ過ぎに拍子木が打たれることがよく合った。四つ過ぎに木戸を抜け隣町へ行く者が居ることを隣町の木戸番に知らせるためだった。
ただ聞こえて来た拍子木の音は木戸番が打ったものではなく、比較的近い辻番が打ったものだと兵庫は直感していた。
「来るぞ」と兵庫が玄関先や廊下に潜む者に伝えた。
案の定足音がして門外で止まった。
脇の潜り戸が微かな音を立てたのは、閂の掛け忘れを期待したためだろうが開かなかった。
暫くすると門からきしみ音が聞こえ、賊の黒い影が門の上部に渡された横木の上に現れ、背景の夜空の星を隠した。
 下級御家人の屋敷の門は、屋根の無い冠木門とほぼ相場が決まって居る。
若林家の門もまたそうで、身の軽い者が人を踏み台にすれば容易く乗り越えられるのだ。
黒い影が舞い降り、脇門を軋ませながら開けた。
一人・二人・・・と入って来て、丁寧に脇門が閉められた。
賊が回していた火縄が止まり誰かが息を吹きかけたのか明るくなり提灯に火が灯った。
賊は七人だった。

兵庫が拍子木を打ち、潜んで居た兵庫、卯吉、甚八郎、浜中が体制の整わない賊に襲い掛かり鼻先に木刀を突き付け動きを封じた。
間髪を入れずに戸が開き灯りと共に人が飛び出してきた。
裏からは「賊は表だ」の声が迫って来る
固まっていた賊の七人は三方から迫った男たちに囲まれ更に固まった。
「動くと、今度は髷の刷毛先を切るだけでは済ましませんよ」と云うと、賊は手に持つ提灯を上げた。
「お主は・・・茶店で会った・・」
「鐘巻兵庫と申します。あなたはやはり武士でしたか。今回は弟子の平九郎から頼まれ半信半疑で加勢し、その通り現れました。あなたは晦日の三左衛門のお身内ですか」
「弟の四郎と申します」
「弟なら敵討ちのために押し入ったのは許します。ただし、四郎殿は返り討ちに遭ったと思い、二度と敵討ちはしないと約束してください。約束して頂ければ皆さんを解き放ちますが如何?」
「我ら誰一人として怪我無く、見事に抑え込まれました。ただ何故このように成ったのかが判りません。そのからくりを教えて頂きませんか」
「平九郎、私もよくわからぬので教えてくれ」
「教える前に四郎殿に頼みたいことがあります」
「この場で出来ることなら」
「ご覧の様にここには八人の加勢と私と兄が居ます。八人の恩人の方々になにがしかの礼を致さねばなりません。皆さんならどのくらいの礼をするかを決め、その半額を負担して頂きたいのですが」
「分かりました。私は今、懐に九両ほど持って居ます。少ないかもしれませんが払えるのはそれだけです」
「それでは、ご助成を頂いた八人の方々に一両ずつお願いします」
四郎は財布から小判を出し八枚を「お分け下さい」と目の前の兵庫に手渡した。

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Posted on 2018/10/22 Mon. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

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