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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第113話 極月(その28)】 

 甚八郎が演じる平九郎の頼みを叶えた四郎は、目を平九郎に向けた。
「私がこの様に皆さんを迎えることが出来たからくりですが、当然のことですが事前に襲われると予知したからです」
「その余地のからくりを聞かせて下さい」
「それは四郎殿のお仲間が若林の家と私のことを辻番に尋ねたからです。この辺りの辻番は番で得た情報を関係者に知らせることで、多少の駄賃を得て居るのです。その辻番が謹慎中の私にもたらした情報が変だったのです」
「変? どのように」
「辻番に“若林平九郎様が近頃お見えにならないと私の主が心配して居るのですが、何かございましたか”と尋ねた者が居るそうです。これはありふれた問い掛けに思えますが、聞かされた私には嘘話です」
「噓・・どの辺りが」
「ざっくばらんに言えば、私のことを心配する他人は居ません。逆に瓦版に載り剣客として名が知られてからは身辺に物騒な者が現れ、我が身の心配をする癖がつきました。私の命を狙う者が居るとすれば、思い当たるのは三左衛門の身内でした。三左衛門は今日の私の様に着込んで居ました。明らかに武士でしたから、瓦版を見た身内が敵討ちに来るのではないかと、当時は心配したのです。私のことを心配して居る者が居ると聞いた時、私は三左衛門のことを思い出し先生に加勢を頼んだのです。襲撃されるとすれば三左衛門の祥月命日の晦日と考えました。実は今夜はその迎え撃つ訓練をしていたのです。そこに偶然と言えば偶然ですが、皆さんが・・・」
「明日くればよかったのですか」
「そうかもしれませんが、今日は闇夜での演習でしたから、怪我をしないように木刀に藁を巻いた物を使いましたが、明日は怪我をさせる物を使います」
「明日は来ません。いや、来られません。もう人を雇う金が在りませんので」
笑いが起こり、
「帰るぞ」と四郎が云い脇門から七人は出て行った。

 兵庫は、「蕎麦の用意を頼みます」と頼み、提灯を持ち門外に出て、提灯をかざし振ると、暗闇の先に明かりがつき近づいて来た。
その先頭は、矢五郎だった。
「誰も、怪我一つしていませんよ」
「それは良かった」
「皆さんお揃いですか」
「いや、七人が何処に戻るか確かめてからこちらにやって来ます」
この夜、事の成り行きを見張っていた者たちは、それぞれのねぐらに戻らず、若林家に入った。
皆厚着だったが、外は寒かった。家の中に入り熱い蕎麦の汁を啜り、語らっていたが一人・二人と眠りに就いていった。

 嘉永六年十二月二十六日(1854-1-24)の夜が明けると、一夜の宿を借りた男たちは主の進之助に挨拶し、若林家に持ち込んだ物を手分けして持ち、了源寺の茶屋へと引き上げていった。
残ったのは兵庫と賄いで入っていた卯吉の二人だった。
 主と一緒に朝食を摂った後、兵庫は片付けを済ませた卯吉を返した。
「間もなく、皆さんが戻って来るでしょう。更に、こちらの事件が終わった知らせも届くでしょう。これは僅かですが、修行の場をお貸し下さいましたお礼です」
兵庫は進之介の前に小判一枚を置いた。
「残りは四郎が晦日に悪さを起こすか否かを見届けるため、あるいは捕らえるために使わせて貰います」
進之介には兵庫の云う事に判らないことが在ったが、一々確かめることはしなかった。
暫くして表戸が叩かれた。兵庫と進之介が出、兵庫が脇門を開けると五平が顔を見せた。
「旦那様、大旦那様のお戻りで御座います」
若林家の者が揃って暫くすると五平の声で
「鐘巻様、弥一さまが参られました」
兵庫が玄関に出て行くと、
「先生、七人は阿部川町の裏店を出てあちらに住処を代えました。大家の話では二十六日までの日割り借家とのことで戻ることは御座いません」
「分かりました。私は神田庵に戻ると皆さんに伝えて下さい」

 暫くして、兵庫は若林家を後にした。その後姿を若林家の者たちが見送っていた。

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Posted on 2018/10/23 Tue. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

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