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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第113話 極月(その29)】 

 神田庵に戻った兵庫を志津が出迎えた。
部屋で横に成って休んでいる兵庫に志津が、
「昨夜は栄様たちと一緒に食事をしました。しかし、ほとんど手を付けませんでした。それで、この部屋で一緒に過ごしました」
「お玉は?」
「お玉の目をごまかすことは未だ出来ないようです。今朝、知らせが来るまで一緒に居てくれましたよ」
 お玉は一年前養育所に収容された時、衰弱していた。
そのため志津の布団の中で寝た。そのためか志津の変化を敏感に察知し、志津に心配事が在ると感じると志津の身近にやってきて離れることは無くなるのだ。
栄の前では気丈に振る舞った志津だったが、お玉の目はごまかせなかったのだ。
「屋敷に戻って来た栄殿は嬉しさを隠しませんでしたよ。今日は非番ですから水入らずで過ごすでしょう」
「いいですね。旦那様、今年も残りが少なくなりました。巳之吉のお願いに参りませんか」
「巳之吉は向こうからの頼みで送ったのですが、水が合ったようですね。午後にでもお願いに参りましょう。亀次郎は今からでは・・・」
「はい、喜んで」
 巳之吉も亀次郎も養育所の子供だが、巳之吉は八丁堀の鐘巻本家へ、亀次郎は亀戸の古着屋の彦六、お勝夫妻に預けてある。
共に養子として迎える前提であるが相性が合わないと破たんするので、様子を見て来たがこれと云った問題は起こらずに来ていた。

 志津は倅・千丸を佐吉とお玉に預け神田庵を出た。亀戸に着くまで、水入らずの道行きだった。
亀戸に“やなぎや”の暖簾を出す古着屋に兵庫と志津が入っていった。
「先生、奥様、いらっしゃいませ。亀次郎なら天満宮へ遊びに行っていますので、昼まで戻りませんよ」と彦六が先手を取った。
「昼まで戻らないと云う事は友達が出来たと云う事ですか」
「御客様がね、亀次郎を見て、礼儀正しく頭も良いので自分の子供を遊びに来させるようになったのです。それが切っ掛けで外でも遊ぶように成ったら、強く優しいことも分かり、今ではガキ大将になって遊んでいます」
「それを伺い、安心しました。未だ、亀次郎の籍が養育所から抜けていませんので、近々、こちらへ籍を移す事にします。内藤が参りますので、宜しくお願いします」
「有り難うございます。婆さん、聞いたか・・・」
彦六の妻・お勝も出て来て頭を下げた。
「お礼を言わねばならないのは養育所の方です。亀次郎が養育所と町との仲立ちとなってくれる日が来るはずですから」

 店を出た兵庫と志津は駒形に寄り、内藤に亀次郎のことを話し年内に届け出を済ますように頼み、更に午後は巳之吉の預け先に出かけることを告げ、神田庵に戻った。

 午後、八つ過ぎ、兵庫と志津は八丁堀の鐘巻本家の主の部屋に入った。
兵庫は留守を守って居る主人・兵馬の妻・玉枝に巳之吉のことを尋ねた。
「巳之吉は剣術を千葉道場で、学問は道場近くの中里先生に学んでいます。どちらも休まず通って居ますよ」
「幸太郎との相性は如何でしょうか」
「巳之吉は幸太郎の立派な兄に成って居ます。幸太郎は一日中、兄の巳之吉を追いかけ回し学んでいます」
「それで、兄上と玉枝殿は巳之吉を受け入れて頂けますか」
「旦那様を父と、私を母と呼ぶようになった子を連れ戻されては困ります」
「分かりました。ただ、巳之吉は私と志津の子として届けを出してあります。近々養育所の内藤虎之助と申す者を寄越しますので、巳之吉の引き取りについて相談して下さい」
「分かりました。間もなく旦那さも戻られると思いますので、父上様の部屋でお待ちください」

 隠居部屋に行くと中から子供たちの声が聞こえて来た。
障子の外から「父上、母上、兵庫です」と声を掛けると、足音がして障子の低いところに穴が空き子供の指が飛び出し、引っ込んだ。
兵庫が障子を静かに開けると見上げる幸太郎と幸太郎を背後から支える巳之吉の顔があった。
「叔父様、叔母様、ようこそ」と巳之吉が挨拶をした。
兵庫を兄と志津を母よ呼んだ巳之吉は既に鐘巻本家の子に成って居た。
兵庫と志津は少し進み座ると両親の多門と初代に挨拶をした。
「もち米が届いた。近々搗く予定だ。巳之吉にも手伝わせるつもりだ」と多門が言った。
「そう言えば、巳之吉、たくましく成って来たな」
「剣術も褒められるようになりました」
「先生は佐那殿か」
「はい、それと坂本先生です」
「坂本?・・坂本竜馬か」
「はい、ご存知ですか」
「押上の道場に夏頃来ました。坂本先生の剣術はまねをしないようにしなさい」
「それは、佐那先生からも言われて居ます」
兵庫が笑い、会話が途絶えたのを捉え、
「いのちきにーたん・・」と幸太郎が袖を引っ張った。
「こうた、叔父さんは剣術が強いよ」
「にーたんよりも」
「私の剣術の先生だったからね」
 その時、玄関から「お戻りですよ」と先ぶれの声がした。
「さあ、お出迎えだ」と兵庫が立ち上がった。 

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Posted on 2018/10/24 Wed. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

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