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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第113話 極月(その32)】 

 定廻り同心久坂が奉行所に持ち帰った情報を与力の鐘巻兵馬は疑う事をせず、時の余裕もなかったこともあり、その日の内に奉行に上げた。
「事件が起きる前か、起きた直後に捕縛できる機会は滅多にない。奉行所の手柄にしたいものだが火盗改めが追っている賊だからな・・・」
「お奉行、ここは火盗改めの手柄に・・・」
「分かった。書状を認(したた)めるので、久須美殿へ久坂と共に使いに行ってくれ」
「畏まりました」

 この時火付け盗賊改め方のお役は久須美祐雋(すけとし)が任じられていた。
南町奉行池田播磨守の使いで駿河台の久須美屋敷を二人は訪れた。
奉行の書状を渡し、書院で待って居ると暫くして一人の武家と町人が入って来て武家が上座に町人が中ほどの脇に座った。
「久須美です。鐘巻殿、久坂殿、お使者ご苦労です。播磨守様のお心、有り難く頂戴するとお伝えください。そこに控えるのは探索を任せている山崎丞(すすむ)です。賊は先々月と先月の晦日に姿を見せては巷に溶け込んでしまい、こちらの手勢も足らず浅草までは手が回らずに居ました。晦日も近づいている折も折、有難い話を持って来て下さいました。私は他用が有り失礼しますが、山崎には二十九日までの探索を任せますので宜しくお願いします。山崎頼む」と、話すだけ話すと部屋から出て行った。

 久須美が出て行くのを見送った山崎が、
「百聞は一見に如かず。私をこの情報をもたらした者の所へご案内して頂きたいのですが」
「確かに、その方が話が早いです。私は久須美様のお言葉をお奉行に伝えるため戻りますが、案内は浅草辺を受け持つ久坂にまかせます」
こうして三人は久須美屋敷を出、暫くすると鐘巻兵馬は奉行所への道を、久坂とそれに供のように従う山崎は浅草平右衛門町へと向かった。
その山崎は風呂敷包を下げていた。
「荷物は探索に使う物かい」
「いいえ、こちらも町に溶け込むための道具で、今回使うのは包丁と砥石です」
「伊達ではなく使えるのかい」
「始めは伊達でしたが、今はそこそこ使えますよ」
「と云う事は、何処かに住み込もうという魂胆かい」
「どこか在りませんか」
「在るが、余り腕がいいと辞めさせてくれなくなるよ」
「それでも結構です・色々と職を変えながら渡り歩いて居ると、何となくですが侍の世は終わり始めているような気がします」
「今回の話は侍に見切りをつけ家を飛び出した者が掘り当てたものだよ。その一人に会いに行くところだよ」
「いいですね。話が合いそうです」

 久坂は山崎から尋ねられたことに応えながら浅草御門までやって来た。
「川向こうが浅草になる。そろそろ料理人に徹して振る舞ってくれ。わしもお主を丞(すすむ)と呼ぶからな」
「それで、結構です」

 御門を通らず柳橋を渡り二人は平右衛門町に入った。川沿いを歩き、久坂が指さした。
「あの、浮橋の主に晦日までの雇い主に成ってくれるように頼んでやるよ」
「お願いします」
 暖簾を潜った久坂が
「番頭さん、主は居るかい」
「何言ってるんですか。薪割の音が聞こえるでしょう」
「そだった。主の存在価値は力仕事だったな」
「ところで番頭さん。こちらの丞さんだが、知り合いで身元は確かな料理人だ。使って貰えないかな」
「それは私が決めることではありません。浮橋では女が仕切って居ます」
「と云う事は、主に頼んでも駄目か」
「主には逆らえませんが、丞さんの居心地がどうか、それを我慢すれば・・」
「丞さん、どうだ」
「年内なら何とか耐えられるでしょう」
「それじゃ頼みに行きましょう」

 久坂と丞は薪割の音が聞こえて来る裏庭まで通じる土間を抜けていった。
そこには大刀を壁に立て掛け薪を割って居る
「山中さん。頼みたいことがある。晦日まででもいいから一人頼みたい」
「良いですよ。何が出来ますか」
「料理です」
「料理か、試してもいいですか」
「結構です。何を作りましょうか」
「こぶです」
「正月用の昆布巻ですね。何でも巻いてみます」
「巻くのは後です。先ず私がこぶを作りますので一歩前に出て下さい」
云われるままに丞が一歩前に出ると、碁四郎の左手が右腰に素早く動き鉄扇を抜くと丞の額を打っていた。
丞の額が腫れ、見ている前で膨れ上がった。
「このこぶでしたか」と試された意味が分かり苦笑いした。
「済みません。雇います。久坂さん他に何か在りますか」
「丞から聞いてくれ」と云い、踵を返した。
「ご苦労様でした」

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Posted on 2018/10/27 Sat. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

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