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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第114話 正月(その2)】 

 しかし、来客を告げる板木がまた打たれると女たちの目は散乱した。
やって来たのは昇龍院から来た者たちと同じ格好をした駒形養育所住いの者たちだった。
これで兵庫は一旦稽古を止め部屋に戻り、年始の挨拶を志津と共に受けた。
やって来たのは養育所の観太、梅次郎の古株と鯛吉、平七、命助、新助、河川、風太、春吉、松助、勝男、歌丸、波吉、米吉等今年十一歳になった子供たち十四人と保安方の新藤栄二、金子鉄太郎と賄い方の卯吉、岩五郎等総勢十八人だった。
 挨拶を交わした後、兵庫との稽古をした。それが済むと暫く昇龍院から来た者たちと、駒形から来た者たちとの交流が行われ、来客は帰っていった。

 静かに成った神田庵に再び箏の調が流れ始めた。
暫くすると中庭はいつもより着飾った女たちが現れ、羽根つきを始めた。
そしてそれを眺める千夏が羽子(はね)歌を歌った。
「一(ひと)ごに二(ふた)ご、三(み)わたし四(よ)めご、五(い)つ来ても六(む)かし、七(なな)んの八(や)くし、九(ここ)のまへで十(とを)よ」
となるのだが、現実はなかなか“よめご”までいかない。
それでも皆が羽根つきの真似ごとをしながら、町の子が歌う羽子歌を覚えていった。

 元日の午前中に神田庵を訪れた客は、この他に聖天町の仕舞屋(しもたや)を根城に養育所のために働き始めた男たち、賄い修行の栄十郎と夏吉、大工修行の総三郎と浜吉、髪結い修行の六助そして棒手振りの修行の熊吉の六人だった。
この六人は何処の養育所にも属していない。その代わり頼まれれば出かけて行くことになる。
その中でも出かけることが多いのが入谷と神田庵だった。
そういう意味では、女たちに顔が売れている者が多かった。
大工衆は女たちから四人部屋を仕切る調度の類を頼まれ、棒手振りはほぼ神田庵専属に、賄い方は冬の冷たい水仕事をさせられていた。
特に髪結いの六助は、呼ばれることが多く腕前を上げていき、実は元日の朝も来ていたのだ。
そう云うこともあり、正月の間、出かける女たちの付き添いに神田庵の保安方だけでは足らず、駆り出されることになった。

 この日、午後に成った兵庫は気に成ることが在り外出した。
それは、昨夜晦日の夜に晦日の四郎が率いる者たちが行ったことの顛末を知りたかったのだ。
 兵庫は何らかの知らせが届いて居ると思い、経師屋為吉の暖簾が出ていない駒形の養育所に立ち寄ったが、音沙汰なしだった。
簡単な挨拶を内藤と交わしただけで兵庫は、浅草平右衛門町の山中碁四郎が営む船宿・浮橋に向かった。
途中、茅町の仏具商・奈良屋の前を通ったが、元日のためか閉め切られていた。

 そして浮橋も暖簾を出して居なかった。
閉められていた出入り口の戸を開け入ると、帳場には碁四郎が座っていた。
「兵さん、済みません。晦日の夜からこれに近い状態で、御上から何か在るのか待って居たら午後に成ってしまいました」
「便りが無いのは良い便り。御上の便りを待って居ると云う事は、昨夜のことにあまり立ち入って居ないと云う事ですね」
「はい、一切手を出して居ません。こちらが最後に見た光景は輪袈裟(りんけさ)を首に掛けたあの七人が奈良屋に入って行く姿でした。年籠りに行く前に立ち寄ったと思わせるものだったと見張っていた網吉の話です」
「最後に見たと云いましたが、出て来る姿は見ていないのですか」
「そうなります。除夜の鐘が打ち終わり、奈良屋の暖簾が仕舞われ、軒の明かりが消されたそうです。それでも明け方まで見て居たが出て来なかったそうです。ただ、出て来なかったのは七人の後から入って行った者も誰一人として出て来なかったそうです」
「こちらに研ぎ師として雇われた丞さんからも何も無いのですか」
「はい、あれを残したまま戻って居ません」と帳場格子の中に置かれていた風呂敷包を指さした。
「表立った事件は起きていないことに成りますね。ただ、火盗改めが関与して居ますので、裏から出たと考えるのが妥当でしょうね」
「賊が七人と分かって居るのですから、取り方はそれに倍する者を使ったでしょう。火盗改めだけで手勢を整えられますかね」
「若林の屋敷では、私たち十人で賊七人を双方無傷で捕らえました。それは不意打ちだったからです。火盗改めも不意打ちの手立てを考えるでしょうから、同数程度で足りるでしょう」
「不意打ちね・・そう考えると、輪袈裟を首に掛けた賊七人の後に奈良屋に入った者が火盗改めなら・・・」
「その辺りでしょう」

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Posted on 2018/10/30 Tue. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

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