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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第114話 正月(その3)】 

 取り敢えずだが、昨夜行われたはずの盗賊・晦日の四郎の捕り物について、捕らえられたはずとの覚束(おぼつか)ない結論を出した兵庫と碁四郎は、御上から知らせが届くのを待つことにした。
と云うのは、元日は総登城で旗本である町奉行、火盗改めの長が城内で何か話し合った可能性も有ったからだ。
 碁四郎が何か情報を得たら駒形に知らせると約したところで、兵庫は浮橋を出て駒形に向かった。
駒形の養育所に入ると、そこには中川矢五郎と根津甚八郎が居た。二人とも兵庫と同じ気がかりで情報が集まる駒形に来て、情報を仕入れに浮橋に向かった兵庫が戻るのを待って居たのだ。
 雑談を止めた内藤が
「何か有りましたか」と予想通りの投げかけをしてきた。
兵庫は昨晩の情況を語り、碁四郎と推測したことを話して聞かせ、情報が入れば駒形に届けられることを伝えた。
「奈良屋の店の表にしろ裏にしろ店に入った賊が外に逃げれば騒動に成ったはず。そうならなかったことは賊が鎮圧されたことを物語って居る」と矢五郎が兵庫と碁四郎の推測を肯定した。
その後、少しばかり話がされたが、結論が出る訳もなく話は途絶え、遅ればせながら新年の挨拶を交わし分かれていった。

 神田庵に戻った兵庫は留守番をさせられた。
と云うのは、二階の女たちが聖天町の男に護衛を頼み、恵方参りとして出かけたため、羽根つき、カルタ、双六で遊んでいた子供たちも外に行きたいと志津にせがんだのだ。
子供とは言え女の子だから、普段よりは粧(め)かした姿を見せたいのだ。
「旦那様が戻るまで待ちなさい」と、その場を収めたが、存外早く兵庫が戻って来てしまったのだ。
 兵庫は子供十五人と保安方二人それに佐吉、志乃、乙女、珊瑚、おしゅん、おみよを部屋に集め、子供たちを恵方参りに連れて行く様に頼んだ。
恵方参りは近くの御不動さんにし、その後、竜泉寺を指定し納得させた。

 結果、神田庵に残ったのは兵庫と志津そして千丸の三人だけに成った。
これは千丸が生まれてから今日まで、一つ家に三人だけに成った記憶は蘇らない稀有な出来事だった。
正月が兵庫と志津に与えたひと時だった。

 正月二日、兵庫と志津は川向こうの養育所の子供たちに会いに行った。
最初に向かったのは向島だった。
ここには深川から来た子供たちが八人居る。
その子供たちの遊ぶ声がかやぶき屋根の向こうから聞こえて来ていた。
木戸を開け母屋に向かい戸口に立った。
囲炉裏が炊かれているため、他の養育所に比べぬくもりが感じられる。
戸口に兵庫と志津の姿を見た村上茂三郎が、「鐘巻様」と云いながら囲炉裏の上に吊るされている板木を叩いた。
「子供たちの顔を見に参りました」
「直ぐに参ります」
その言葉通り、奥からは女の子が廊下を通り、裏からは男の子が土間を通り子供たちが集まって来た。
養育所の子は輝五郎、仙六郎、長七郎、杉太、竹弥、柳造の男の子とお園、佐保の女の子で他に茂三郎の妻・縫の子の象二郎と孫の森蝶の姿が見られた。
「皆さん、明けましておめでとうございます」
「御目出とうございます」
「いま養育所の子供たちを預かって居る所が六ケ所在ります。おおざっぱに云うと男女、年齢で分けて居ますが、今までの友達と別れると寂しいと思いここには深川の子に入って貰いました。しかし、違う所から来た子とも早く友達に成る様にならないといけません。お正月が終わったら、組替えを行いますので楽しみにして下さい。それでは男の子は母上を自分たちの部屋に案内して下さい」

 母屋から男の子たちが居なくなった。
「お園、佐保、二人は年齢から言えば神田庵に入る対象ですが、いま神田庵に入っても学ぶことは少ないです。暫くここで学び続けて下さい」
「はい、いま行っても千夏さんのお手伝を出来ずに迷惑を掛けるだけです。ここで学ばせて下さい」
「先生、お願いします。蝶のためにもこのままお願いします」
「その時が来た時には相談させて貰います。これから押上の子供たちの顔も見たいので失礼します」
 裏に建てられた長屋に行くと志津は二段寝床の具合を確かめて居た。
「志津」と声を掛けた
「押上に行って来ます。こんど神田庵に遊びに来なさい」
兵庫と志津が向島の養育所を出た。

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Posted on 2018/10/31 Wed. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

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