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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第114話 正月(その7)】 

 正月五日、今日は四つに奉行所で、闕所(けっしょ)になった霊岸島四日市町の白木屋への入れ札の封が開かれるため、内藤と出かけることに成って居た。
出掛けるには少し早かったが、朝食を済ませると兵庫は正装し駒形の養育所に向かった。

兵庫が入れ札に参加したのは養育所の関連拠点、特に子供預かり所を孤立させずに増やすためである。
預かり所に預けられる子供の多くが一人親である。幼子が居ては働くことが困難になる者たちは子供を見捨てる恐れが在る。事実見捨てられた子供たちを寄宿させ学ばせ育てる養育所には既に百人近い子供たちが居るのだ。
そうした孤児を増やさないためにも子供預かり所を、預けられる距離に作らねばならない。
そうした場所は花街や、料理屋の並ぶ街の近辺で子供預かり所のために安く場所を貸してくれる者は居ない。
 現在は駒形、薬研堀、深川に各一か所在る。今後預かり所として使えそうなのが聖天町の仕舞屋と神田庵であるが十分とは言えない。
入れ札する白木屋は日本橋地区にあると同時に、永代橋西詰近くで深川の預かり所にも近く手に入れたい物件だった。

 駒形で内藤虎之助を加えた兵庫は、途中晦日の四郎等が年籠りの一行に化け、入った仏具商。奈良屋の前を通った。
「何も無かったようですね」と内藤が見て云った。
「本当にそうなら良いのですが、事件を隠したいことが在るのなら、平穏には治まらなかったからだと何となく思えてきました」
「思えて来たとは読みが進んだのですね」
「仏具を扱う店内で死人が出たとすると、店の主としては隠したいのではないかと思っただけです」
「言われてみると、隠したくなりますね」
 更に歩いて二人は平右衛門町の船宿・浮橋に入った。
「旦那は相変わらず、薪割か」と兵庫が呟いた。
「はい、助かって居ます」と番頭の幸吉が応えた。
「私たちは奉行所に行き、入れ札の結果を確かめて来ると伝えて下さい」
「はい、そのように伝えます。

 奉行所に四半刻ほど早く着いた兵庫と内藤は、門近くに控えている者に、要件と名を告げると、一旦仮の部屋に案内され入ると数人が既に来ていて、板の間に座っていた。
一礼する町人たちに礼を返し、空いている奥に座った。
時の流れが部屋に人を運び、座を譲り合う様子が見られたが、並んで座る兵庫と内藤の周りにはまだ十分な空間が有った。
侍は結局この部屋を出るまで兵庫と内藤の二人だけだった。

 四つの鐘が鳴る前に、入れ札を開封する部屋まで案内された。
上座には物を乗せた文机が三台置かれていた。
待って居ると、侍三人がやって来て上座に座った。
「これより、霊岸島四日市町白子屋万蔵宅の入れ札を箱より取り出し開封する。なお全てが開封され当選者が決まるまで席を立たぬよう」
箱の蓋が開けられ中身が文机の上に置かれた。その一つを取り上げ開き
「万寿屋佐平殿 二十五両一分」と屋号と入札値が披露された。
そして五件ほどが披露されたが似たような値付けだった。
「内藤さん、山倉屋の話は当たって居ますね」
「談合するのは当たり前、相場を下げて誰かに勝たせる。相手は一人です。山倉屋の指し値は訳あり物件ということで五十両でしたが、落札は三十両あたりを狙うだろうでした。そうなれば継志館養育所の勝ちです」
文机の上に残った入れ札が二通になった。
その中に養育所の物が残ったのは偶然なのか、兵庫は大いに疑問を感じていた。
どちらを先に読むかが問題に成ってきた。
一通が手に取られ、開かれた
「継志館養育所鐘巻兵庫殿 三十二両」と読み上げられ、どよめきが起きた。
そして、残った一通が開かれた。
「瑞穂屋宇吉殿 三十両一分」と役人は書かれていた指し値を水増しすることなく呼んだ。
「落札者は継志堂養育所鐘巻兵庫殿に決まりました。手続きをお願いいします。他の方々は退出をお願いします」帳面を付けていた役人が言った。

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Posted on 2018/11/04 Sun. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

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