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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第114話 正月(その8)】 

 兵庫と内藤が入り札で提示した三十二両と引き換えに、白子屋の沽券(こけん)を受け取る手続きを済ませていると、廊下を足早に一人の武士がやって来た。
「鐘巻様。外でお待ちしておりましたら、落札されたと聞き、慌ててこちらに参りました。播磨守様がお会いしたいとのことで御座います」
「お奉行が・・・」と内藤を見た。
「どうぞ、もう大金は持って居ませんので護衛は要りません」と内藤が遠慮した。
「役宅ですので、ご一緒で差し支えありません」と使いの者が言った。

 入り札の手続きが行われた建屋を出て、奥に建つ奉行の役宅の書院に通された。
待たされることもなく、南町奉行所奉行の池田播磨守が姿を見せた。
「お久しぶりです。こちらは養育所設立を願い出た三人の一人・・」
「内藤虎之助と申します」
「此度も養育所の方々には世話を頂き、奉行所としても面目を保てた。一言礼をと思って居たら、お主の兄者から、今日奉行所に来て居ると聞き、呼んで貰ったのだ。聞けば入り札の首尾も上々、瑞穂屋は泣いて帰ったそうだ」
「こちらが上々の首尾を勝ち得たのはお奉行のお陰と思って居ます」
「名うての商人を相手に正々堂々と勝ち得た、それもわずか二両ほどの差でとは軍師でも居るのか」
「いなくては敵いません」
「色々と軍師が揃って居るので何でも分かって居るのだと思うが、何か聞きたいことは在るか」と奉行が誘って来た。
「気に成ることが一つ在ります。奈良屋に関わった山崎丞という者が荷物を取りに戻りません。もし怪我でもしているのでしたら養育所で働いて貰えないかお伝え願いたいのですが」
「山崎丞か。奈良屋の主を庇って怪我をした者がいたとは聞いている。確かめてお主の言ったことは伝えるようにする」
「お忙しいところわざわざお呼びいただき有り難うございました。養育所にとって良い一年が始まりました」

 奉行所からの帰り道、兵庫と内藤は落札した白子屋に回った。
今日一杯で奉行所の白子屋に対する警備が解かれてしまうからだ。
要するに、白子屋を養育所の者たちで守らなければならなく成ったのだ。
「内藤さん、私は白子屋に泊まります。そのことを志津にお願いします。それと常吉さんと彦次郎さん大工見習の二人を泊る支度をさせ送り込んで下さい。それと畳屋の弥助さんも呼んで下さい。握り飯も頼みます」 
「分かりました。今夜からの賄い方も送り込みます」

 白子屋に着くと、兵庫は番人に、白子屋を落札した証として、奉行所から受け取った沽券を見せ、入口の青竹の封印を外させた。
「何か決まりが有るのでしたら別ですが、もう引き揚げて貰っても構いません」
「誰か来られると思い待って居ました。八つに戻りますので、弁当を使わせて頂けますか」
「構いませんよ。茶を淹れて上げます」
「すみませんね」
「兵庫が戸を開けると、冬とは言え日が経って居るので腐敗臭が流れ出て来た」
「何ですか、この臭いは」
「知らないのですか。だいぶ血が流れたので・・・」
「弁当は外で食べます」
「内藤さん。こんな按配ですから気の弱い者は寄越さないで下さい」
「そんな者が養育所に居ましたか・・・」と云い、内藤は帰っていった。

 屋内に一人入った兵庫は草履(ぞうり)履きのまま土間、一階、二階と回り戸と云う戸を開けていった。
そして三十二両は安い買い物だと思った。
 一階土間に戻った兵庫は竃(へっつい)に水を入れた釜を掛け、苦労して火付け道具を探し出し、火を付けた。
そして一階の血を吸った畳表を切り取り、竃の火の中にくべていった。
それが終わると、斬り合いのあった部屋に
炭火を入れた七輪を置き濡らした焚き付けを乗せ、煙を部屋に充満させ、いぶし続けた。
そうし、兵庫は外に暫く出て、中に入り臭いを嗅いだ。
最初に足を踏み入れた時の嫌な臭いに代わり焚き火の煙の臭いに変わっていた。

 白子屋に最初に来たのは畳屋の弥助を連れた常吉だった。
「先生、だいぶいぶしましたね。気に成る臭いはしませんよ」
「仏が放置されていたわけではないからな」
「先生に前回呼ばれた時も薬研堀の修羅場の後でしたね」と畳屋の弥助が思い出していった。
「ひどく汚れて居た所は切り取って燃やしてしまいました。一階の修羅場の部屋だけ畳表を交換して下さい」
「分かりました。見せて貰います」

 弥助が居なくなると、兵庫は常吉から握り飯を受け取り、遅くなった昼飯を食べながら、
「常吉さんに、ここを任せるつもりです」と告げた。
「えっ、私に・・ですか・・・」と云い、常吉は絶句した。

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Posted on 2018/11/05 Mon. 06:04 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

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11/05 06:21 | edit

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