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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第114話 正月(その9)】 

 話を受けるのを躊躇う様子を見せる常吉に、兵庫が、
「養育所の最初から関わり、支えて頂いて来ました。養育所が必要な世の中であることを一番理解して居るのは、苦労して来た常吉さんです。そのことは皆が見聞きして知って居ますので、遠慮はしないで下さい」
「有り難うございます」
「それでは、皆が来る前に家の様子を見ておいて下さい」
「そうします」

 暫くして白子屋に集まって来たのは元宮大工の彦次郎と修行中の総三郎と浜吉、賄いの岩五郎が駒形から、白子屋の場所を確かめるために棒手振りの忠治が天秤を担ぎ向島からやって来た。
 八人が畳の汚れていない部屋に集まった。
「この家についてはご存知だと思いますが、過日、十人を上回る者が亡くなる事件が起きています。事件がどのように裁かれたのかは知りませんが、この家・家財・土地がまとめて闕所扱いとなり、先程奉行所で行われた入れ札の結果、養育所の物と成りました。家を空けると家財が無くなる恐れが在ります。また、事件の跡を残したままでは、鈍感な私でも居心地が悪いので交換と修繕のため、お呼びしました。またここでの暮らしを始める者が増えます。その中には子供たちや弱い大人も居るはずです。その弱い者たちを守るためにこの家の主を常吉さんにお願いしました。皆さんで盛り立ててあげて下さい」
「常吉、良かったな」と長老の彦次郎が声を上げた。
「有り難うございます」
「それでは、確認を終えた畳屋の弥助さんを除いて持ち場に行って何をすべきか確かめて下さい。私は帳場で番をしています」と兵庫が言い、皆が与えられた役割のために散っていった。
弥助は明日からの畳表の張替えの支度をするために戻っていった。

 兵庫は帳場に置かれている調度品とその中身などを確かめたが、帳簿の類は一切なく、金目の物は見当たらなかった。その割には筆、硯、墨などは残っており、記録と金は奉行所に没収されたように思われた。

 調べを終えた兵庫が帳場に腰を下ろし外を眺めていると、中を覗き込む者が姿を見せた。
そして十数人が中に入って来た。
「嫌にけむてぇな」と人相を必要以上に悪く見せた男が言った。
「先日ここで十数人が斬り合って亡くなったそうです。その腐った血の匂いを消すために家じゅうをいぶしていたのです」
「お侍さん、こちらに預けておいた金を引き取りに来たのです。お手間は取らせませんので上がらせて下さい」
「そうは言ってもここの元主人の白子屋さんはお亡くなりに成りましたので、居りませんが」
「心配は要りません。万蔵さんからは、留守の時には“ここに入れておきますので持ち帰って下さい”と言われた場所を知って居ますので」
「そうですか。それではお一人だけお上がりください」
「これは物分かりの良いお侍で助かります。お前たち待って居ろ」
上がった男は迷うことなく入って行き、兵庫はその後を足音高く付いていった。
男は部屋に入った。そこの畳表も切り取られては居たが、血痕の飛び散った跡は残って居た。
「ここで万蔵はやられたのか。南無阿弥陀仏」と独り言を言い、押入れを開け、跪(ひざまず)いた。
そして押入れ側面の板の一枚を上にずらすとその板が外れ隠し空間が現れた。
そこから袋を引き出し懐に入れ、外した側面の板を元に戻した。
「どうも、確かに受け取りました」と男は立ち上がった。
しかし、男は兵庫の足もとに崩れ落ちた。当身をくらったのだ。
兵庫は男の懐から袋と匕首を取り出し自分の懐に入れた。
 そこに奥で台所仕事をしていた岩五郎が姿を見せた。
「こいつは賊です。表に十人ほど仲間が来ている。男たちに得物を持たせ控えさせて下さい。用意が出来たら、旦那と呼んで下さい」
「分かりました」
兵庫は倒れている男をうつ伏せにすると、下げ緒で手足をまとめて縛り上げ表に出て行った。
 兵庫が表に出て行くと、待って居た者が、「兄貴は?」と尋ねた。
「押入れに首を突っ込んでいます。私は表の番人なので、長くは付き合えないので戻って来ました。もう直ぐ来るでしょう」
「旦那」と呼ぶ声が奥から上がった。
「こっちは柄の悪いのが家に入るのを押さえて居るんだ。用が有るのならそっちが来い」
と兵庫が怒鳴った。

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Posted on 2018/11/06 Tue. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

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