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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第114話 正月(その13)】 

 常吉一家の荷物を一階の汚れの無い部屋に運ぶのを兵庫も手伝った。
何と荷の中には押上で飼われていた子猫が一匹駕籠に入れられ連れて来られていた。
常吉が鼠が居るのを見かけたためつれてきたもので、前年に生まれた雌猫のマメだとお仙が教えてくれた。
ここに落ち着くことを考えての常吉・お仙夫妻が持参するものに加えたものだった。
兵庫は常吉夫妻の覚悟を見て、神田庵に戻りその日を終えた。

 正月七日、向島や押上の子供たちが摘んだ春の七草が神田庵にも配られ、七草粥が出された。
子供たちにとって、それは旨いものではないが、訳を聞き食べるのは、腹が空いたから食べる時代の終わりを感じさせると同時に、正月が今日でひと段落することも教えられ味わっていた。

 午後に成って、思っても居なかった来客があった。
旗本金子家の婿養子として入った若林平九郎が実父の忠衛門と来たのだ。
「先生、ご無沙汰しております」が平九郎の第一声だった。
部屋に通すと互いに上座を譲り、双方が上座を空け座った。
「先生、奥様、此度は私の至らぬためにとんだご迷惑をおかけし申し訳ありませんでした。けが人も出さず、事件にもせず納めたと聞いております。その続きが在ればお聞かせ願いたいのですが」
「確かに平九郎殿を仇と狙う者を無傷で返したのですから気に成ると思います。そのことは分かって居ますので、結末を早く知らせようと思って居たのですが、捕縛を任せた火盗改め或いは奉行所の方から音沙汰なしで遅れて居ます。一昨日、皆奉行所に用が有り出向いたところ奉行の播磨の守様にお会いでき、こちらの気に成ることを尋ねました」
と云い、兵庫は一呼吸入れ、話しを続けた。
「昨年、晦日の四郎が若林家に押し行った翌日、私は知り合いの南町奉行所定廻りに、晦日の四郎が浅草茅町の仏具商奈良屋に押し入る恐れがあることを告げました。この話は定廻・与力・奉行とあがり、奉行・播磨守はこの話を火盗改めの久須美様に知らせることにしました。久須美様はこの話を火盗改めが仕切る事にし、密偵を晦日の四郎を見張る私たちの仲間の元に送り込んできました。これで私たちは見張ること以外のことは一切やめることに成りました。晦日の日、四郎等七人は年籠(としごも)りに化け年籠りの者たちの接待をしている奈良屋に押し入るのではなく、何事もせずに入り姿を消しました。その後七人の姿が店から出る様子は確かめられて居ません。ただし奈良屋の主人の姿は正月二日に確かめられて居るので、晦日の四郎等は捕縛されたと思われます。その裏付けに成るか否かですが、今年の五日に別件でお奉行に会うことが出来ました。その機会に私は仲間の家に入り火盗改め方の密偵が私物を残して戻らないので怪我でもしたのか心配して居ると申し上げたら、一人、店の主を庇い怪我をした者が居ると話して居ました。これは捕縛行動が在ったことを示して居ます。それとお奉行は喜んでいましたので。賊が捕縛されたのは間違いないでしょう」
「私を狙う晦日の四郎にはどのような裁きが待って居ますか」
「四郎には余罪が在りますから、軽くは無いでしょう。もう心配は要りませんよ」
「父上、兄者が私の代わりに襲われることは先ずないとのことです」
「忠衛門殿、私の方で晦日の四郎がどのように裁かれるかを調べます。四郎は元侍と言ってありますので厳しいお裁きが下る筈です」
兵庫が補足し納得したのだろう、忠衛門の顔に笑みが浮かんだ。

 来客の二人が来ていることで神田庵の中は静かだったが、帰ると女たちに自由が戻り、神田庵のいたるところで過ぎて行く正月を楽しむ声が上がりはじめた。
それを聞き、千丸と遊ぶ兵庫の顔に、仕事の手を休めて見る志津の顔にも自ずから笑みが浮かんでいた。
こうして養育所の正月が暮れていった。

第114話 正月 完

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Posted on 2018/11/10 Sat. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

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