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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【湯上り碁四郎無頼控え 十三話 川止め(その8)】 

「あれ?、旦那はどちらへ」
「柳橋の様子を見てきます」
「また、どうして?」
「あの橋だけは守らないといけませんから」
「旦那、いやに橋にこだわりますね」
帰る途中、碁四郎と橋の話をしてきた銀太が不思議そうな調子で言った。
「皆さん、柳橋が中途半端に壊れたら、浮橋の商いはどうなりますか」
「・・・・・・」
「そうか・・長い間船の出し入れが出来なくては商売上がったりですね」
「ですからなんとしてでも柳橋を守りたいのです」
「しかし、人の手ではたいしたことは出来ませんよ」
「そうですね。でも・・・」
「旦那様は、何もしないで居るのが嫌なのですよ」
言葉が詰まった碁四郎の代わりに女将の静が、諦めとも思える顔を見せ応えた。
「そうだった。さすが奥さんだ」
「兎に角、橋を見てきて、守る手立てを考えますよ」
「銀太、中のことは頼む、おれは旦那と川を見てくる」
碁四郎と捨吉が出て行き、浦島の中では持ち込まれた船へ荷物を乗せる仕事が始まった。

 外に出た碁四郎と捨吉は浮橋の前の流れを見ていた。
「あと三尺で護岸を超えますね」
「二尺は黙っていても満ち潮で上がります」
「川上で今より少し多めに雨が降るとあぶないですね」
「そうですが、神田川の川上で降るか、大川の川上で降るかで様子が変わります」
「どういうことですか」
「大川の水位と神田川の水位の差で神田川の流れの早さが変わるんです」
「神田川の流れが変わるのは毎日見ていますから分かります」
「旦那が気にしている柳橋にとって心配なのは、神田川の流れが増す方です」
「分かってきました。大川より神田川上流に雨が降るほうが怖いのですね」
捨吉は黙って頷くと
「それじゃ、橋を見に行きましょう」
普段なら人が行き交い混雑する神田川沿いの道だが、並ぶ店は皆大戸を下ろしていて、嵐の中好き好んで歩く者も居らず閑散としていた。
橋のたもとに立った二人は増水し橋脚を洗う流れを見ていた。
その流れに運ばれて来た草やごみが橋脚に絡まり、流れから顔を出し積み上げられいく様子が碁四郎の不安をかきたててきた。
その不安が碁四郎を橋の上に招き、欄干の擬宝珠(ぎぼし)に耳を当てさせた。
橋脚を洗う水の流れが低い唸りとなって耳に伝わってくるのを聞いていて「あっ」と声をあげた。
「どうかしましたか」
「橋げたに何かが当たりました」
「この程度の流れでしたら、多少重いものが当たっても橋は大丈夫ですよ」
「そうですか。でも、あの絡まったごみは取り除きましょう」
「分かりました。その手配はします」
碁四郎は捨吉が素直に自分の言うことを受け入れてくれたことで満足したのか、目を眼下の流れから川上に向けた。
「旦那、どうかしましたか」
川上を見ていた碁四郎の目の視点が定まらなくなったのを見た捨吉が尋ねた。
「船が見えませんよ」
「えっ?」
「つながれていた東雲屋の船が見えません」
「あっ、沈んだようですね。見に行きましょう」

Posted on 2011/04/28 Thu. 06:46 [edit]

thread: 幕末物語

janre 小説・文学

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