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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【湯上り侍無頼控え 二話 石の下(その19)】 

嘉永五年四月七日(1852-5-25)、雨は上がったが、空にはまだ降り足りないと思うのか無彩色の厚い雲が垂れ込めていた。
雨で二日休んでいた朝駆けで両国橋を渡り本所を巡り、上流に架かる吾妻橋を渡り浅草の町を通り柳橋の平右衛門町の湯屋、富士の湯まで駆け戻ると碁四郎は、更に重い鍛錬棒を振り身体を目覚めさた。
 この後、碁四郎を待っているのが朝の女湯一番風呂、そして朝飯の至福の時なのだが、それもカラスの行水と早食いで終わり、二階の部屋に戻り三助の仕事着、と言ってもふんどし一本になり、その上から半纏を着て横になり客が来るのを待っていた。
雨の日とは違い歩くのも軽快で、下駄を鳴らしてやってくる、その音と方向そして調子で客が来たと碁四郎は起き上がった。
 程なくして、いつものようにお静、お駒、お吉の売れっ子芸者が顔を見せた。
「都鳥の手拭いを持って来たよ。これを使いなさい」
「ほんとに三助を頬被り姿でやらせる気ですか」
「そうですよ。女湯の喧嘩はみっともないからね」
「背中を流すだけですよ。後ろを向いていて見えないのですか頬かむりの必用はないでしょう」
「そうじゃないわよ。他の女が三助している碁四郎さんを見るんだよ。そうなると、群がり忙しくなるよ。下手に断わってみなさい。あの子の背中は流して私のは流さないとか、必ず何か揉め事が出るよ。それでもいいの」
「分かりました。頬被りします」
本当に芸者衆の言うようになるのかは定かではないが、仕事が増え、それに追われては気に入っている居候ではなくなってしまうので、頬被りして三助仕事を終わらせた。

 昼前に船宿に行くと、さほど天気は良くないのだが釣り客や浅草までの短い船旅を楽しもうとする客を運ぶため、顔見知りの船頭は出払っていた。
また、昼を食べてから舟で出かける客も居て、忙しかったのだが、碁四郎が店に姿を見せると直ぐに番頭が女将のお蔦に知らせた。
嬉しそうに顔を見せたお蔦が碁四郎を奥に招き入れた。
「これ見てください。碁四郎さんが源さんの息子さんと知って、出しておきました」
「なんですか」
「これは五十年ほど前に碁四郎さんのお父上が着ていた物ですよ」
「わざわざ出されたと言うことは・・・」
「はい、明日此処から出て行くときに着てもらうつもりです」
「その方が、今着ている物より、私の髷には合うのでしょうね」
「それはそうだよ。私がコロッといったんだから」
その話は今は忙しそうなのでまた雨の降る日に来ますので、その時聞かせて下さい
碁四郎は、忙しい昼時の浮橋を出、湯屋に戻った。

夕方になって篠塚が町人姿でやってきた。
「能代屋の使いの小僧は何処にも寄らずに浮橋に入り、能代屋に戻ったよ」
「そうでしたか。これで明日、賊が出ても能代屋から咎人を出さずにすみますね」
「そうだが、その頭・・・町人姿にはなれるが、とても真似ができん。たいしたもんだよ、あんたは」
篠塚は呆れ顔も真顔の入り交じった顔をし、帰って行った。

Posted on 2011/03/20 Sun. 16:22 [edit]

thread: 幕末物語

janre 小説・文学

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