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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第九話 侍志願(その10)】 

 兵庫は倒れている二人に近づくと正三郎の死を確かめ
「甚右衛門殿、見事でした。傷の手当を・・」
「いや、もうよい」
甚右衛門は傍らに倒れている正三郎にいざり寄ると脇差を鞘ごと抜き取った。
「正三郎め、この様なものを持ち出さなければよかったものを、わざわざわしに見せおって」
そうは言ったが甚右衛門には分かっていた。
正三郎が死を望み、甚右衛門が出さずに抑えていた武士の一分を、脇差を見せることで引きずり出したことを。
深手に堪えながら甚右衛門が
「鐘巻殿、礼を申す」
そう言うと甚右衛門は正三郎から取り戻した脇差を抜き、己の喉を突いた。
菖蒲造りの切っ先が甚右衛門の首を貫き、二筋の樋を伝い血が流れ落ちた。

 正三郎は養子縁組を前にして死に、侍にはなれなかった。
だが、正三郎は見事に侍として死んでいったと兵庫は思った。
二人の最後を見届けた兵庫は手を合わせると立ち上がった。
離れたところに倉之助に連れてこられたのか名主を始めとした田山家の人影がこちらを見ていた。
兵庫はそれに向かった頭を下げると、恐る恐るやって来た。
名主は既に倉之助から遺骸の処置を聞かされていたのか、迷うことなく二人の遺骸を用意した別々の大八車に乗せると引き上げていった。

「兵庫、よくやった」
倉之助の労(ねぎら)いの声だった。
「いいえ、何も出来ませんでした」
「それで、良かったのじゃ」
兵庫は正三郎に向けて投げなかった懐の石を掴むと投げ放った。
その石の先、東の空には昇ったばかりの朝日が、その下の江戸湾を輝かせ、さらにその奥、下総の黒い山並を光の中に浮き出させていた。

第九話 侍志願 完

Posted on 2011/09/22 Thu. 04:40 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

この記事に対するコメント

色々と有難う御座います

私は作者ですから、書いている以外にも思ったことは沢山在ります。
その中で、書くべきだったこともあったでしょう。
また、それ以上に力及ばず、書けなかったことが沢山あるはずです。
それが何か?
分かりません。
今は100万文字を綴るだけです。

時の釣人 #- | URL
09/22 11:53 | edit

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09/22 06:40 | edit

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