【鐘巻兵庫 第十話 貧乏侍(その2)】
岡部が井戸で申し訳程度に手を洗い、薄汚れた手拭いで拭き待っていると、やっと虎之助がやって来て、庭に建っている道場を見て立ち止まった。
「こっちだ」
岡部に急かされ、やってきた虎之助は岡部が汲んでおいた水で手を洗いながら
「立派な道場ですね」
「そうか、ここは流行らない雲風流養理館相川道場だが」
道場脇にある母屋の台所、その隣の溜り場に、岡部が虎之助を伴い入ってきたので、昼飯を食っていた佐々木ともう一人の若侍が飯を食うのを止め、虎之助を見た。
岡部は慣れた手つきで自分の丼に半分ほど飯を盛ると、申し訳なさそうに立っている虎之助に
「内藤さん、手を広げてくれ」
言われるままに広げた手のひらに岡部は丼を逆さにして飯を乗せ
「塩と味噌は台所にある」
内藤が嬉しそうに台所へ行くと、岡部は丼に少しばかり遠慮して自分の飯を山盛った。
それをじっと見ていた若侍が
「あの方は?」
「あの人は、今日問屋場に来た内藤虎之助さんだよ」
佐々木が飯を頬張っている岡部に代わり応えた。
「それにしても、すごい食べっぷりですね」
若侍の視線の先には、頬に飯粒を付け、まだもの欲しそうにしている虎之助が立っていた。
若侍は少しばかり飯の残ったお鉢を取り
「どうぞ、食べて下さい」
「これはどうも。内藤虎之助と申します」
「鐘巻兵庫と申します。遠慮なさらず、どうぞ」
佐々木も岡部も何も言わずに、虎之助がお鉢の飯を結びにして食べるのを見ながら自分達も忙しく飯を口に運んだ。
茶を飲み、人心地ついた虎之助が
「久し振りに歯ごたえのある米の飯を食わせてもらいました。お礼に何か御用は御座いませんか」
「おい内藤さん、問屋場の仕事はどうするんだ」
「あれは、岡部殿お一人でも出来そうですから」
「おい、楽をさせてもらったと思ったからこそ、わしの昼飯を分けたのだ」
「そうですが、佐々木殿と鐘巻殿からも分けていただきました。なにかしないと食い逃げになります」
「ここには仕事はない。わしは、礼は要らぬ。兵庫、お主はどうだ」
暫らく考える様子を見せ、返事をしなかった兵庫に
「おい、兵庫!」と痺れを切らした佐々木が返事を催促した。
「あっ、はい、仕事が見つかりました」
「それは、何だ」
「内藤さんは侍でしょ。たまには侍らしい仕事も良いのではと思いました」
「侍らしい仕事があれば、わし等がやっている。ここにどんな侍らしい仕事があるというのだ」
「もちろん剣術ですよ。今日は午後、少し若い門弟がやってきますので、佐々木さんや岡部さんでは出来ない剣術の稽古相手をしてもらおうかと」
「兵庫、わし等に出来ない剣術とはなんだ」
「分かりきったことです。叩かれることです。内藤さん剣術の腕前は?」
「恥ずかしながら、道場には一度も通ったことはございません。なにしろ生まれながらの貧乏浪人ですから」
「なるほど、わし等には出来ぬ稽古相手だな。特に八郎には」
「内藤さん、よければこれからも私の昼を半分お分けしますので、暫らく剣術の叩かれ修行をなされたら如何ですか」
「それは、願ってもないことです。食わせてもらってうえ、今までやりたくても出来なかった剣術修行。やらせてもらいます」
「こっちだ」
岡部に急かされ、やってきた虎之助は岡部が汲んでおいた水で手を洗いながら
「立派な道場ですね」
「そうか、ここは流行らない雲風流養理館相川道場だが」
道場脇にある母屋の台所、その隣の溜り場に、岡部が虎之助を伴い入ってきたので、昼飯を食っていた佐々木ともう一人の若侍が飯を食うのを止め、虎之助を見た。
岡部は慣れた手つきで自分の丼に半分ほど飯を盛ると、申し訳なさそうに立っている虎之助に
「内藤さん、手を広げてくれ」
言われるままに広げた手のひらに岡部は丼を逆さにして飯を乗せ
「塩と味噌は台所にある」
内藤が嬉しそうに台所へ行くと、岡部は丼に少しばかり遠慮して自分の飯を山盛った。
それをじっと見ていた若侍が
「あの方は?」
「あの人は、今日問屋場に来た内藤虎之助さんだよ」
佐々木が飯を頬張っている岡部に代わり応えた。
「それにしても、すごい食べっぷりですね」
若侍の視線の先には、頬に飯粒を付け、まだもの欲しそうにしている虎之助が立っていた。
若侍は少しばかり飯の残ったお鉢を取り
「どうぞ、食べて下さい」
「これはどうも。内藤虎之助と申します」
「鐘巻兵庫と申します。遠慮なさらず、どうぞ」
佐々木も岡部も何も言わずに、虎之助がお鉢の飯を結びにして食べるのを見ながら自分達も忙しく飯を口に運んだ。
茶を飲み、人心地ついた虎之助が
「久し振りに歯ごたえのある米の飯を食わせてもらいました。お礼に何か御用は御座いませんか」
「おい内藤さん、問屋場の仕事はどうするんだ」
「あれは、岡部殿お一人でも出来そうですから」
「おい、楽をさせてもらったと思ったからこそ、わしの昼飯を分けたのだ」
「そうですが、佐々木殿と鐘巻殿からも分けていただきました。なにかしないと食い逃げになります」
「ここには仕事はない。わしは、礼は要らぬ。兵庫、お主はどうだ」
暫らく考える様子を見せ、返事をしなかった兵庫に
「おい、兵庫!」と痺れを切らした佐々木が返事を催促した。
「あっ、はい、仕事が見つかりました」
「それは、何だ」
「内藤さんは侍でしょ。たまには侍らしい仕事も良いのではと思いました」
「侍らしい仕事があれば、わし等がやっている。ここにどんな侍らしい仕事があるというのだ」
「もちろん剣術ですよ。今日は午後、少し若い門弟がやってきますので、佐々木さんや岡部さんでは出来ない剣術の稽古相手をしてもらおうかと」
「兵庫、わし等に出来ない剣術とはなんだ」
「分かりきったことです。叩かれることです。内藤さん剣術の腕前は?」
「恥ずかしながら、道場には一度も通ったことはございません。なにしろ生まれながらの貧乏浪人ですから」
「なるほど、わし等には出来ぬ稽古相手だな。特に八郎には」
「内藤さん、よければこれからも私の昼を半分お分けしますので、暫らく剣術の叩かれ修行をなされたら如何ですか」
「それは、願ってもないことです。食わせてもらってうえ、今までやりたくても出来なかった剣術修行。やらせてもらいます」
« 尺貫法 | 自分の尻を拭けなかった紙やの旦那 »
この記事に対するコメント
無料友情出演
貧乏ですので、出演料は払えません・・
セリフが無いと全くの通行人になってしまいますから、短いセリフをおまけします。
役は名主の倅、名を小平太とします。
出番は「その6」ぐらいになると思いますが、その役柄の苦情はお受けいたしません。
ということで。
時の釣人 #- | URL
09/24 07:48 | edit
09/24 07:48 | edit
管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
# |
09/24 07:02 | edit
09/24 07:02 | edit
トラックバック
| h o m e |