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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第十話 貧乏侍(その10)】 

 兵庫は誰か虎之助をつけるものが居ないか見ていたが、その気配はなかった。
手に持っていた茶碗に少しばかり残っていた茶を飲み干すと茶代を置き兵庫も店を出ていった。
しばらく虎之助を着かず離れず追ったが、特に変わった様子も見られないので、歩み寄り
「私は戻りますので、内藤さんは仕事を続けて下さい」
「分かりました。今日を入れ三泊し四日目には戻れると思います」
「そう、急がれずに四泊し五日目に戻られれば宜しいのでは」
「そうしたいのですが。それでは・・・」
歩む速さを変えずに尻切れトンボの返事をする虎之助に
「お急ぎのようですね。それでは私の残ったむすびを持っていって下さい」
兵庫が晩飯のむすびが入った弁当行李を懐から出すと、虎之助が
「かたじけない」
と侍言葉を使い受け取った。

 虎之助を見送った兵庫は茶店を見張る半次の所まで戻り
「何か変わったことはありましたか」
「いや、ございやせんでした」
その後、二人は退屈な時を過ごした。
「半次さん、七つを過ぎました。今から賊が茶店を出ても戸田の渡しには間に合わないでしょう。私は蕨に戻り、明日またここに参ります。半次さんはこの近くの宿に泊まって下さい」
兵庫は懐から一朱を出し、半次に手渡し、その場を後にした。

 翌朝、顔色の良い幸に見送られ兵庫は店を出た。
氷川神社裏参道の茶店‘みたらし’を見張る半次の所に着いたのは五つ(八時)頃だった。
「どうですか」
「六つ(六時)から張ってやしたが、まだ客の一人も出入りしてやせん」
「朝は食べましたか」
「まだ、入(へぇ)りやす」
兵庫は笑いながら、持参した荷を解き、半次の分を渡しながら
「残り物で済まないと言っていました」
「えっ、これが残りもんですか」
「私が食べた物ではありません。そういうものを残す贅沢な客もいるそうです」
「そう云う事にしておきやしょう」
半次は旨そうに兵庫の手土産を食べていた。
「半次さん、茶店から怪しいものが出てきたら、私がつけ江戸の方へ行くようでしたら、そのまま川を渡ります。半次さんは、この店から何人、そのような者が板橋へ向かったかを見張って下さい。暮れ六つの渡し止めに間に合うよう、八つ半頃にはここを離れ板橋に戻って下さい」
「分かってやす」

 茶店近くの見張り場に着いて半時が過ぎ、今日も退屈な見張りが続くのかと兵庫が覚悟し、大きな欠伸(あくび)をした時、
「旦那、侍が二人出てきやした。昨晩、やって来たんでしょうかね」
兵庫は出てきた侍を見ながら、
「浪人ですね。私の出番です。後はお願いします」
「任せてくだせぇ」
兵庫は懐の財布から一朱取り出すと、半次に渡し、のんびり歩く浪人の後をかなりの間をとりついていった。
浪人は氷川神社裏参道から中仙道に出ると、南・江戸方面へと歩いていった。

Posted on 2011/10/02 Sun. 05:59 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

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