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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第十話 貧乏侍(その18)】 

 頷いた糟谷が、五平の前に座ると、こめかみに出来た瘤を十手で叩きながら
「かどわかした留吉の娘はどこに居る。素直に話せ」
「かどわかしてはいねぇ。櫛だけ貰っただけだ。留吉にはそれで十分だったよ」
「よく聞け。押し込みは未遂だ。これまでに他の罪科が無ければお目こぼしも在る。正直に言え」
「嘘じゃねぇ」
五平の目を見、小さく頷き立ち上がった糟谷が
「小沢さん、わしは五平を頂いていく。あとは頼むよ」
脇で様子を見ていた浦和代官所役人の小沢に言った。

 この年の春、小沢は悪党の赤羽の時蔵に多少の鼻薬を貰い、蕨宿の女郎宿に目こぼしをしたのだ。その後、時蔵が獄門首と糟谷に教えられなんとか役目上の落ち度をせずに済んだ。糟谷には借りがあったのだ。
管轄違いの糟谷が大宮宿で賊を捕らえていくのを素直に聞き入れたのは、そんな事情が働いたのかもしれない。

「分かっている。戸田の渡しまではわしが見送る。友蔵、店を閉め代官所の者が来るまで店番を頼む」
「へい。旦那」

 五平を捕らえた糟谷一行が幸の店の前までやって来たのは虎之助が去って一刻ほど過ぎた頃だった。
「少し用がありますので、私はここで」
兵庫の言葉に訳知りの岡っ引きの佐平が
「道場の先生には明日戻ると言っときやすよ」
兵庫は照れながら、店に入っていった。

 兵庫が店に入ってきたのを見た、仲居のお福は調理場の幸に知らせた。
出てきた幸は待ち焦がれていたように、兵庫を奥の部屋に招き入れようとした。
お福が笑うのを見て、兵庫はまた照れながら奥の部屋に入っていった。
奥の部屋では岡っ引きの佐平や仲居のお福が思ったようなことは何も起こらず、
「これを虎さんと言う方から預かりました」
幸は荷を解かずにいた物を兵庫の前に置き、虎之助が言い残した言葉を伝えた。
 兵庫が荷を解くと握り飯を詰めて虎之助に渡した二つの弁当行李が出てきた。
その一つには切餅が六つ、百五十両が入っていた。
これに二人が驚き、顔を見合わせた。
「これを届けてくれたのは内藤虎之助殿というお方です。貧乏生活をしていても百五十両の大金に転ばない不思議な人ですね」
「お侍だったのですか。お疲れのようでしたが掛け蕎麦一杯で帰られました」
「これを受け取ると、私も長居が出来なくなりました。私は掛け蕎麦ではなく、うなぎを食べて戻ることにします」
少しばかり残念そうな素振りをお互いに見せあったが、
「そうして下さい。こんなものを何時まで持っていては物騒ですから。うなぎ直ぐに支度します」

 兵庫が百五十両もの大金を持って道場に戻ったのには流石の倉之助も驚いた。
「内藤殿がこれを‘役立てください’と言い残した以上、宿場の役に立てねばなるまいな」
「今年は不作で、助郷負担も大変だったと聞いております」
「先ずは、百姓が年を越せるようにせねばならぬな」
倉之助は切餅を懐に納めた。

Posted on 2011/10/10 Mon. 05:10 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

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