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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第十五話 はやり風邪(その7)】 

 そして十日、志津の家族が亀戸へ引越しを済ませた。
志津は引越しを機会に働いていた船宿・入船の女将と話し、入船に取って大事な客が来る時だけ、店に出ることにした。
このことは馴染みの客にも知らされたため、客は前もって入船の女将に話し、志津が呼べるか、客が重ならないかを尋ねやってきたのだ。

 ある時、伊勢亀山藩の家来衆が入船に来て、騒ぎを起こし帰って行った。
「何処で聞いたのか評判の美人が居ないと文句を付けたのだ」
女将は、事情を話し、明後日の二十一日に来るときは志津を呼ぶことで納得させた。
入船からの使いが亀戸の志津の所を訪れ、そのことを話し帰った。
「母上様、如何致しましょうか」
母、田鶴は亀山藩と聞いて
「そのような席に出ては亡き夫に申し訳が出来ません」
「しかし、それではお世話になった入船が困るでしょう。一度だけ出るようにしますので、お許し下さい」
「夫が刃傷に及び罰を受けたのは仕方ないことです。しかし、元はといえば大野仙太夫様の理不尽な申し出と、その後の御振る舞いが夫に刀を抜かせたのです」
「母上、もうそのことを話して頂いても良いのではありませんか。私も大人なのですから」
田鶴が話しを始めた。
「あれは、お前が十五の時でした。上役である馬廻り組頭の大野様に呼ばれお屋敷に出かけたのです」
山中矢兵衛が出かけていくと、当主の仙太夫自らが出てきて
「よく参られた。さ、どうぞこちらへ」
通された部屋には酒の用意がされていた。
いぶかった矢兵衛が
 「大野様何用で御座いましょうか」
そのようなことは、飲みながら話そうと、手ずから銚子を取り、酒をすすめた。
仕方なく、杯を取り数献(すうこん)交わし、再度尋ねた。
「今日の、お呼びの趣お聞かせ下さい」
暫らく、言うのを控えていた仙太夫が
「お主の娘の志津をくれぬか」
「御嫡子鎌太郎殿にでしょうか」
返事を渋る仙太夫に
「この話し、お受けいたしかねますれば、失礼致します」
矢兵衛が話しを断わったのは、大野仙太夫の酒癖、女癖の評判が悪く配下の娘に手を出し、泣き寝入りさせていたのを知っていたからだった。

 このことがあって、暫らくすると妙な噂が矢兵衛や田鶴の耳に入るようになった
それは、矢兵衛が娘の美貌で殿様に取り入ろうとしているというものだった。
矢兵衛は噂の出所を親戚筋などに確かめていくと、大野家から出たものであることがわかった。
矢兵衛は登城すると、大野仙太夫に近づき
「思い知れ」と一言いうと
脇差を抜き仙太夫を刺し、さらに止めを刺し、己も喉を突いたのだった

Posted on 2012/01/04 Wed. 06:06 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

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